We will celebrate a new year.
例年より雪が少ないプレアデス城では、夕方からお祭り騒ぎだった。
今年1年の労を讃え合い、新しい年を笑顔で迎えようと、
酒場を始めレストランや広場には、多くの人が集まっている。
しかし、全ての者が騒ぎまくっているわけではない。
酒場を切り盛りするアンヌや厨房で美味しい料理を絶えず作っているメイミ、
宿泊客数が過去最高に達したことで大わらわのセバスチャンなどは、
とてもお祭り騒ぎに参加など出来なかった。
そして、プレアデス城の若き城主であるトーマスもまた、その一人であった。
彼は、事務室を兼ねた自室に篭もって、書類の山と戦っていた。
「ええっと・・・食料庫には食材は・・・4日間位は、調達しなくても大丈夫かな。
傷薬や医薬品は・・・トウタ先生のおかげで当分は不自由しないよね。
2階の廊下と階段の手すりは・・・年明けに修理を頼んで・・・。」
などなど、山積みの書類に次々と目を通した。
書類の提出者が『これこれこのようにしたい』という意見を隅に書き込んでいるので、
城の財政事情や物品の在庫数等を考慮して、トーマスが最終的に決断を下していた。
城主の特権と言えば聞こえは良いが、ただでさえ厳しい城の財政を考えると、
一事が万事「了承」というわけにはいかない。
切りつめるところは極力切りつめ、限られた予算で物を買ったり、
城の修理をしなければならない。
一つの書類の決断でさえ、頭が痛い・・・これがトーマスの本音である。
「ふぅっ・・・疲れたぁ。」
書類の半分以上を処理したトーマスが、机に突っ伏した。
「・・・パーシヴァルさん、どうしているかなぁ・・・?
みんなと、今頃宴会とか、してるんだろうなぁ・・・。」
いっそのこと、この書類を放り投げて、パーシヴァルさんを探しに行っちゃおうか・・・?
そして、そのまま自分も宴に参加してしまおうかな・・・。
そういえば、メイミさんが年末限定でディナーボックスを作るって言ってたっけ・・・。
食べてみたいなぁ・・・。
そんな考えが頭をよぎったが。
「ダメだダメだ。ここで投げ出したら、年明けに地獄が待っている・・・。」
落胆の溜息をつき、再び書類に目を向けた。
「今日は、徹夜かなぁ・・・。」
時計の針を恨めしげに見つめた。
新しい年を迎えるまで、あと3時間。
「よしっ、頑張ろう。」
口にした言葉とは裏腹に、トーマスの声には力が無かった。
コンコン
突然、扉をノックする音がして、トーマスははっと顔を上げた。
普段なら自室に近づく足音には気付くのに、余程書類の山に神経を集中していたのか、
ノックの音がするまで来訪者に全く気付かなかった。
「こんばんは、城主殿。」
声の主はパーシヴァルだった。
今日は鎧を身に纏っていない。
「あ・・・はい、今開けます・・・。」
トーマスは椅子から転がるように離れ、扉へ向かった。
「お忙しいところ、失礼いたします。」
相も変わらぬ、柔らかな物腰。丁寧な言葉。
「い、いえ・・・僕も、少し休もうかなと思っていましたから・・・。」
少し前に休んだばかりだったが、既にトーマスは書類の山に辟易していた。
パーシヴァルの来訪は、ある意味天の助けと言えた。
「城主殿、夕食はもうお済みですか?」
「い、いえ・・・実は・・・まだです。」
「よろしかったら、一緒にいかがですか?」
そういってパーシヴァルが差し出したのは、メイミ特製・年末限定ディナーボックスだった。
「頑張っている城主殿に、差し入れです。」
「・・・あ!これ、食べてみたかったんですよ。」
「それは良かった。買った甲斐がありました。」
「ありがとうございます。すぐお茶を淹れますね。」
「いえ、私がやりましょう。城主殿は座っていてください。」
「で、でも・・・。」
「大丈夫です。お任せください。」
「・・・すみません、おねがいします。」
「かしこまりました。」
そういってトーマスを椅子に座らせ、慣れた手つきでお茶の準備を始めた。
(パーシヴァルさん、完璧すぎ・・・・・。)
いつでも、自分の欲しい言葉をくれる。
自分の望む物を与えてくれる。
人当たりは良いし、カッコイイし、剣術も乗馬も軽くこなしてしまう。
自分がパーシヴァルと同じ年齢になっても、きっと何一つ、
パーシヴァルには敵わないだろう。
そんなことを考えているうちに、ふつふつとトーマスの心に一つの感情が芽生えてきた。
「パーシヴァルさん、ずるい。」
「・・・・・は?」
無意識のうちに、口をついて出た言葉。
一瞬、トーマスはしまった! と思ったが、
今更取り消すことなど出来るはずも無く。
目の前には、両手にカップを持って固まっている、自分の恋人。
その恋人を困らせる言葉しか言えない自分が情けなくなってきた。
「ずるい・・・ですか?・・・・・」
カップをテーブルに置いたパーシヴァルに困惑の色をたたえた笑みを浮かべられ、
トーマスはいよいよ引っ込みがつかなくなった。
「・・・ず、ずるい・・・ですよ。」
パーシヴァルのシャツに縋るように、トーマスはパーシヴァルに抱きついた。
「僕は・・・僕は、きっとパーシヴァルさんくらいの年齢になっても、
何一つ敵いっこないから・・・。何でも出来て・・・・僕のこと、何でもわかっちゃう、
パーシヴァルさんって・・・ずるいです・・・。」
ぽつぽつと紡がれる言葉に、パーシヴァルは酔った。
本当は責められているはずなのに、トーマスの言葉はあまりにも素直すぎて、
かえってパーシヴァルの良い部分ばかりを挙げられていることを、
パーシヴァルは知ってしまったからだ。
「・・・それは、最大の賛辞と受け取ってもよろしいでしょうか?」
「しっ、・・・知りません!」
顔を見られたくないのか、トーマスはパーシヴァルの肩に自分の頭を押しつけた。
「では、その『ずるい男』からの提案なのですが・・・。」
トーマスの栗色の髪をそっと撫でる。
限りなく優しく、甘い声でパーシヴァルは囁いた。
「・・・うぅ・・・。」
その囁きから逃れるようにトーマスは身を捩ったが、パーシヴァルは逃すはずもなく、
結局トーマスはパーシヴァルのされるがままに任せた。
「夕食を、一緒に食べましょう。
新しい年を迎えるまで、2人で過ごしましょう。
年が明けたら、一緒にお祝いしましょう。
その山積みの書類を片付ける、お手伝いをいたしましょう。
・・・・・いかがですか?」
トーマスの耳元で、優しく囁く。
栗色の髪に隠れた耳に、そっとキスをして。
少しの間、黙り込んでいたトーマスだったが、ぽそぽそと呟いた。
「そ・・・その提案・・・お受けします。」
「ありがとうございます。」
「・・・書類・・・本当に手伝ってくださいね。」
「お任せを。」
トーマスは、パーシヴァルの肩に押しつけたままだった顔をゆっくりと上げた。
パーシヴァルは、トーマスの髪を撫でていた手をそっと頬に添え、甘いキスを贈った。
「約束ですよ。一緒に書類、片付けましょうね!」
「ええ、わかっていますよ。」
「ちゃっちゃっと片付けてから、ゆっくりお正月を過ごしましょうね。」
「はい・・・。」
(・・・書類を片付ける方が先なのですか、城主殿・・・・・?)
パーシヴァルは、トーマスに見つからないように、こっそりと肩を落とした。
2004年も、良い年でありますように。
End