We will celebrate a new year.





微かに、除夜の鐘の音が聞こえる。

「あと20分で、12時っすね・・・。」
毎年恒例の歌番組を見ながら、ぽつりと子津が呟いた。
「そうだな・・・。」
テレビに興味が無いらしい犬飼は、年越し蕎麦を啜っている。
「こんな日まで仕事なんて、犬飼君のご両親も大変っすね。」
「いい加減、慣れた・・・。
そのかわり、正月明けに休むらしいがな。」
「ふぅん、そうなんすか?・・・みんなが働いてる時に休めるってのも、
それはそれで良いかもしれないっすね。」
「確かにな・・・。」
「そういえば、犬飼君のお姉さんもお仕事っすか?」
犬飼家に遊びに行くと、時々熱烈な出迎えをしてくれる彼の姉の姿が
今日は見えないので子津は聞いてみたが、犬飼はふいと顔を背け、
不機嫌そうにぼそぼそと呟いた。
「・・・泊まりがけで、・・・デート・・・。」
「・・・え?・・あ・・・そ、そうっすか・・・?」
何故か、子津の頬が赤く染まった。
子津には見えなかったが、犬飼も顔が真っ赤に染まっていた。
そのまま、2人、無言で蕎麦を啜る。
「でっでもっ、お忙しいのに年越し蕎麦やおせち料理をきちんと作ってくださってるっすから、
犬飼君のお母さんには感謝しないといけないっすね?」
何とか、話題を切り替えようと必死の子津。
「・・・ま、まぁな・・・。」
いつの間にか歌番組は終わり、これもまた毎年恒例の厳かな雰囲気の番組が始まった。
「・・・ごちそうさまでしたっす。」
「ごちそうさま・・・。」
手を合わせて丁寧にお辞儀をするのが子津らしいな、とぼんやりと犬飼は考えた。
子津はてきぱきと食器を下げ、台所で洗いものを始めた。
テレビにはどこかの寺の様子が映し出されている。
一面、雪で覆われたその寺は、どこか北の方にあるのだろう。
テレビの方を向いてはいるが、相変わらず、犬飼はその番組を見ていない。


「・・・とりあえず、すまねぇ。」
唐突に、犬飼が切り出した。
「何がっすか?」
洗った食器を拭きながら、子津は犬飼に向き直った。
「その、お前んち忙しいんだろ、この時期は。」
「あぁ、その事っすか・・・?別に良いっすよ。もう気にしないでくださいっす。」
やんわりと、子津は微笑んだ。
それは、時折見せる困ったような笑顔とは違う、優しい笑顔だった。
「けどな・・・。」
犬飼はゆっくりと台所へ向かい、子津に歩み寄った。
以前、年末年始はいつも家族全員で店の支度やら食事の準備やらで大忙しなため、
休んでる暇がないっすよ、と子津が話してくれたことを、今また思い出してしまったのだ。。
家族が仕事や外出で不在になるため、正月を一人で過ごすことを子津に話した時に、
「そんなの寂しすぎるっす!」と力説され、大晦日から1月2日までの間、
犬飼の家に泊まりに来ることを子津が提案したのだ。
別に一人で過ごすことはよくある事だし、正月だからといって普段と何も変わらないと
考えていた犬飼だったが、そのような申し出をしてくれた子津の気持ちが、
本当は嬉しかった。
子津と2人きりの正月という美味しいシチュエーションに酔いしれる前に、
子津家の年末事情を聞いてしまった犬飼は、泣く泣くその申し出を断ったのだが、
当の子津が頑として泊まりに行くことを主張したので、申し訳ないとは思いつつも、
結局その好意に甘えることになったのだ。
「本当に、良いっすよ。たまには、僕だってゆっくりとお正月、迎えたいっす。
家族にも、ちゃんと許してもらったっすよ。それに・・・。」
言いかけて、子津の頬が再び真っ赤になった。
「・・・それに・・・何だ?」
俯いてしまった子津の髪をそっと撫でる。
「そっ、それに・・・ご家族が家にいなくて、ひ、一人でお正月を過ごすなんて、
・・・可哀想っすよ。だ、だから、ぼ、ボクが側にいれば、少しは・・・寂しくないかなって・・・。」
テレビの音にかき消されそうなくらいの子津の呟きを、犬飼は聞き逃さなかった。
子津が手にしていた皿を取り上げてテーブルに置き、包み込むように子津を抱きしめた。
「・・・一人で正月を迎えても、別に構わねぇと、思っていたけどな・・・。
お前のその気持ちが、とりあえず嬉しい。」
「犬飼くん・・・。」
犬飼の腕の中でおとなしくしていた子津が、おずおずと腕を伸ばし、犬飼の背に縋りついた。
「・・・ほ、本当は、犬飼くんと一緒に・・・、新しい年を迎えたかったっすよ。」
「・・・とりあえず、俺もだ。・・・本当はな。」
「・・・良かったっす・・・。」


屋外から、テレビから、除夜の鐘が聞こえる。
テレビに映った時計の数字が、0:00になった時。
2人は、新年初めての口づけを交わした。


「・・・明けまして、おめでとうございます。犬飼くん。」
「・・・とりあえず、おめでとう。子津。」
互いの瞳に相手を映したまま、2人はくすくす笑い合った。



2004年も、良い年でありますように。



End


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