nostalgia
「ルミナス、おらの村へ来いよ!約束どおりご馳走すっからさ!!」
森の中で野宿の準備を始めていたルミナスの元に、突然届けられた手紙。
受け取ったメッセージは、ピケットからのものだった。
力強くまっすぐな字は、ピケットの大らかさと実直さが伺える。
思わず、ルミナスは口許に笑みを湛えた。
「・・・どうする・・・?」
一年中雪に覆われたラビド村へ行くかどうか、ルミナスはみんなの意見を求めた。
「ほぉ・・・ピケットから・・・。しかし、あの村の寒さは私にはちょっと辛いのですがな。」
身を震わせてゴリガンが呟く。あまり気乗りがしない・・・という感じだ。
「えー?どうしてー?ご馳走してくれるって書いてあるのにー。」
不服の声を上げるのはセレナだ。
「お前・・・王族のくせに卑しいんだな・・・。」
呆れたようにレオが呟く。
「うるさいわねー!人の好意は無下に断っちゃいけないでしょ!!
それに、私は一度ラビド村へ行ってみたいのよ。
雪がしんしんと降り積もる北の大地、ふかふかの毛皮に覆われた、
ぬいぐるみみたいなかわい〜いラビド族・・・。
これは行くしかないわよ!ねっねっ、行きましょうよールミナスー!」
ルミナスの腕を取り懇願する。こうなるとセレナは一歩も譲らない。
「レオは・・・どう思う?」
「俺は・・・別に行ってもいい。
それに、ピケットもセプターだろう?退屈はしないだろうからな。」
「ル・・・ルミナス殿はどうお考えですかな?
もちろん、あんな寒い地になど行きたくないでしょうな!?」
2対1・・・形勢不利となったゴリガンが、救いの声をルミナスに求める。
ルミナスがノーと言えば、セレナも引き下がるかもしれない・・・と考えたのだ。
「私は・・・・・。」
頬に手を添えてしばし考え込んだルミナスだったが、さっと顔を上げた。
「・・・そうね・・・久々にピケットに会うのもいいかもしれない。
レインボウピースを譲ってもらった時は、せっかくのおもてなしを断ったことだし・・・。」
「そ・・・そんなぁ・・・・・。」
「やったー!じゃ、早速出発しましょう、ルミナス!」
がっくりと項垂れるゴリガン。一方のセレナははしゃいでいる。
「さあ、善は急げ、よ!
ドラゴンとかガーゴイルあたりでひとっ飛びしましょう!!」
「ドラゴンもガーゴイルも素では召還できないだろ・・・。」
「う・・・うるさいわねっ!」
セレナとレオの舌戦を余所に、ルミナスがカードを選ぶ。
召還されたのはグリフォン。
ルミナスにしては珍しい、風属性クリーチャーだった。
「・・・じゃあ、行きましょう。
グリフォンの背なら、結構温かいと思うし・・・。」
ちらりと、ルミナスはゴリガンを見やる。
寒いラビド村へ行くことを唯一人渋っていたゴリガンに、申し訳なさそうに苦笑いをしてみせる。
「・・・はぁ・・・わかりましたよ。ルミナス殿が決めたのであれば、私もついて行きますぞ。」
観念したゴリガンが、真っ先にグリフォンの背に飛び乗る。
せめて、一番温かい場所を確保しよう・・・というつもりらしい。
ゴリガンに見つからないように笑みを堪え、3人も後に続いた。
夕日が沈み掛かった頃、ルミナス一行はラビド村へ到着した。
グリフォンをカードに戻し、ルミナスはほんの少し切なそうにラビドの村を見つめた。
その様子に気付いたレオが、ルミナスに声をかけようとしたところへ・・・。
「ルミナス!良く来てくれたなぁ!」
にこにこと嬉しそうに笑いながら、ピケットとラビド族の若者数名が出迎えに来てくれた。
先程までの表情を胸にしまい、控えめに笑顔を見せるルミナス。
「こんばんは。遅い時間にごめんなさい・・・。」
「何言ってんだよ!呼んだのはおらの方なんだからさ!
なあなあ、せっかくだから、明後日までここでゆっくりしていけよ!
ルミナスとは、久し振りに勝負もしたいしさ。
・・・先を急いでるのはわかってるけど・・・。」
ほんの少し、ピケットの表情が曇る。
以前ラビド村を訪れた時は、ルミナスとゴリガンは鉱石「虹のかけら」泥棒の疑いをかけられた。
ピケットの誤解が晴れ、村で歓迎の準備を始めようとしてくれたが、
あの時は一刻を争う事態に巻き込まれていたので、歓迎を辞退するしかなかった。
これ以上ピケット達の気持ちを無駄にしたくないので、ルミナスは今回のラビド村訪問を決めたのだ。
ピケットを安心させるように、ルミナスは穏やかな声で話しかける。
「・・・ありがとう。じゃあ・・・明後日まで、ご厄介になっても良い?」
「厄介・・・だなんて言うなよ!
ルミナスは、おら達の村の恩人なんだから、なーんにも遠慮する事なんてねえぞ!
おや・・・族長は今、他の村へ出かけてるけど、ルミナス達を招待したことは話してあるから
安心しろよ!」
「うん。じゃあ、・・・お世話になるね。」
「おら達に任せとけって!
ああ、あんた達もゆっくりしていきなよ!」
背後のセレナ達に、ようやく声をかける。
ルミナスの背後で2人の会話を聞いていた3名だが・・・。
「お世話になりま〜す!」
「・・・どうか、暖かい部屋を用意してくだされ・・・。」
「・・・・・よろしく。」
三者三様でピケットに挨拶を返す。
初めて訪れたラビド村に感激しているセレナ。
ピケットに会ったのはこれで二度目だが、夢にまで見た?ぬいぐるみみたいな可愛い一族が
目の前で歓迎してくれているので、幸せそうに頬を緩めている。
寒さに打ち震えているゴリガン。
マフラーで全身をくるまれた姿ではあるが、歯をガチガチ鳴らせて震えている。
どことなく仏頂面のレオ・・・・・。
ルミナスとピケットが楽しそうに会話しているのが面白くないらしい。
初めて会った時に比べ、ルミナスは少しずつではあるが笑顔を見せるようになってきたが、
ピケットと話している間のルミナスがどことなく嬉しそうに見えて、心穏やかではいられなくなったようだ。
「ちょっとレオ!何ぶすっとした顔しているのよ!
ピケット君達に失礼じゃない!?」
「・・・別に・・・・・。」
肘でレオの腕を突くが、レオはそっぽを向いてしまう。
「何なのよ・・・もう・・・?」
首を傾げるセレナだったが、気を取り直してピケットの仲間達の輪に加わった。
誰に対しても物怖じせず会話ができるというのは、彼女の最大の利点と言えよう。
もっとも、「可愛い」発言でラビド族の若者達に一斉に怒られてしまったのだが・・・。
「まずは、家に入れよ。ここで立ち話してると、凍死しちまうぞ?」
ピケットに案内され、ラビド村の集落へ足を踏み入れた。
しばらくはピケットの家で暖を取っていたが、村の女性達が料理の支度を始めたという声を聞き、
ルミナスとセレナは腰を上げた。
別にゆっくりしていればいいのに・・・というピケットの言葉に、
ただお世話になりっぱなしは悪いから少しくらいは・・・と、やんわりとルミナスが返す。
ゴリガンは・・・というと暖炉の前に陣取り、一歩も離れようとしない。
手持ち無沙汰になったレオは、ぼんやりと窓から降りしきる雪を眺めていた。
「なあなあ。」
ふと、背後から声をかけられて、レオが慌てて視線を戻すと、
ピケットが屈託のない笑顔でこちらを見上げている。
「レオって言ったよなぁ。あんたもセプターなんだろ?
支度ができるまでの間、おらと一勝負してくれねえかな?」
勝負・・・と聞けば、レオが拒む理由は何も無い。
「わかった。受けて立とう。」
・・・この勝負、負けられない。
元々負けん気の強いレオではあったが、ピケットとの対戦では何が何でも勝ってやる・・・という
気持ちが強く沸き起こった。
「よーし!それじゃ、外に行くぞ!!」
嬉々として家を飛び出していくピケットの後に、レオも続いた。
「・・・・・はぁ・・・全く、この寒いのにみんな元気ですな・・・。」
1人取り残されたゴリガンであったが、暖炉の側を離れるつもりは毛頭無いようで、
ぬくぬくとその身を温めていた。
「あんた、なかなか強いなぁ!」
「この程度の差ならすぐに逆転してみせる!」
攻撃的な戦法のレオに対し、ピケットは守り重視の戦いを展開する。
2人の戦いは全く両極端と言えよう。
両者とも水属性のクリーチャーを使用することから、水の土地争奪戦は熾烈なものとなったが、
序盤にアイスウォールの土地をレベルアップできたこと、ヒドラやシェルクリーパなどを順調に
水の土地に配置できたことで、ややピケット有利で展開されている。
また、レオが興味を示さない地属性の土地を堅実に手に入れることも忘れていない。
一方のレオは、風の土地を拠点として巻き返しを図る。
ナイキーやペガサスが土地を守り、グレムリン・ナイトなどでピケットの土地に侵略を図る。
しかし、エボニーアイドルしか無属性をブックに組み込んでいないピケットに対しては、
レオの持つエレメンタルレイジとバニシングレイの計4枚は無用の長物となってしまった。
また、アイテムカードの巡りが悪いことも、レオにとっては攻め手に欠ける一因となった。
「くっ・・・このままでは・・・。」
徐々に、レオの表情に焦りが見え始めた。
「あ、ねえねえ見てよルミナス!」
食器棚から大きな皿を出していたセレナが、窓の外で展開されているピケットとレオの対戦に気付き、
ルミナスを呼び止めた。
「あ・・・2人とも勝負してる・・・。」
ルミナスの表情が微かに綻んだことを確認し、セレナは満足そうに頷いた。
「いいな〜何か楽しそうよね〜。ねっ、明日は私達も混ざって4人で対戦しない?」
以前のルミナスだったら、ここですんなりとOKの返事は返ってこなかったが、
最近ルミナス自身が物事を前向きに受け止めるようになってきたので、
セレナは自信と確信を持ってルミナスに話を持ちかけた。
「うん・・・・・そうね。後でピケットに話してみようか?」
「やった〜!」
期待通りの返答に、皿を抱えたままセレナが踊り出す。
「あ・・・セレナ、お皿。気をつけてね・・・。」
軽快なステップを踏むセレナをそっと窘める。
セレナは、は〜いと返事をしながら皿を運んでいった。
村の若者が捕ってきたたくさんの川魚が目に留まったルミナスは、側にいる女性に声をかけた。
「あの・・・すみません・・・これ、何匹か分けてもらえませんか?」
その夜。
ラビド村の集会所は大宴会場となった。
外出から戻ったラビド族長は、ゴリガンと酒を酌み交わし、何やら語り合っている。
セレナはラビド族の少年少女達に囲まれ、会話に花が咲いている。
ピケット達は空になった皿を下げたり飲み物の調達に大わらわだ。
ルミナスも途中まではピケット達の手伝いをしていたが、「客人は座ってろ!」と
無理矢理席に着かされた。
「ルミナスは、少し働き過ぎじゃないのか?」
ラビドの若者から飲み物を受け取ったレオが、ルミナスの隣に腰掛ける。
「・・・子供の頃からの習慣でね・・・。
昔から故郷で新年の祝い事があると、小さな子供でも会場の準備や料理の支度に駆り出されていたから。
じっとしていると、かえって落ち着かないみたい・・・。」
ほろ苦い笑みを湛えて、大皿から香草と川魚のマリネを取り分ける。
レオも倣って、マリネに手を伸ばす。
「さっきこの料理食べてみたんだが、酸味が効いていて美味いな。」
途端に、さっとルミナスの頬が赤に染まる。
「・・・どうしたんだ?」
「あ・・・あの・・・こっ、これは・・・。
故郷で・・・新年に必ず出される料理で・・・。
マリネにちょうど良い魚がたくさんあったから・・・何匹か、分けてもらって・・・。」
慌ててレオから視線を逸らす。
ふと、ラビド族の小さな女の子が母親と間違えたのか、寝ぼけ眼でルミナスの腰にしがみつき、
そのまま眠ってしまった。
その場を誤魔化すように、ルミナスは子供の背を静かに撫でる。
「・・・ということは、この料理はルミナスが・・・?」
「・・・・・・習慣って、嫌なものね。
年が明けたら、やはりこれを食べないと落ち着かなくて・・・。」
肩を竦めて、少し困ったように微笑む。
「10歳の時に母親から作り方を教えてもらって・・・。
それから毎年・・・、無病息災を願いながら、このマリネを作り続けてきたの。
今年は・・・今年からはもう作ることは無いのかな・・・って思っていたんだけどね。」
ルミナスは顔を上げ、宴会の様子を見渡す。
楽しそうに笑い合う人々。静かに語り合う人々。酔いが回ったのか、大の字になって寝そべる人・・・。
今、この会場にいる全ての人が幸せそうに見える。
「この村は・・・雰囲気が少しだけ・・・故郷に似てる・・・。」
目を細めて寂しそうに、しかしほんの少しだけ嬉しそうに、ルミナスは呟いた。
「・・・・・・。」
一瞬レオは言葉に詰まったが、ルミナスが決して寂しさにのみ囚われているのではないと気付き、
ホッと胸をなで下ろした。
何よりも、ルミナスが自分から過去の話をするようになったということは、
過去の苦い思い出に悩み苦しんでいた自分自身から一歩大きく踏み出した結果と言えよう。
「来年も、またこの料理・・・作ってくれるか・・・?」
ぼそぼそと途切れがちに紡がれたレオの声は、しっかりルミナスに届いていた。
再び、ルミナスの頬が真っ赤に染まる。
「・・・・・え・・・?」
「あ・・・いや。だから・・・・・。」
つられて、レオの頬にも熱が帯びるが。
「こ〜らぁ〜!!そこ〜!なぁーに盛り上がってるのよぉ〜!!!」
強烈なタックルとともに、セレナ乱入。
「レオー!今日は負けちまったけど、明日はぜっっったいに勝ってみせるからな〜!!」
同じく、ピケットも乱入。
「お・・・お前らっ・・・酔ってるな?酔ってるだろう!?」
照れ隠しに、2人に当たり散らすレオ。
ちらりと視線をルミナスに向けると、しばらくは乱入者2名の様子をボーゼンと眺めていたが、
こちらも照れ隠しなのか、肩を震わせて必死に笑いを堪え始めた。
そして、この状況でも、ラビド族の子供はしっかりとルミナスに捉まって離れない・・・。
こんな風に笑えるようになったんだから、これから先にどのような苦難が待ち受けようと、
彼女だったら乗り越えていける気がする。
そんなことをぼんやりと考えながらも、レオは酔っぱらい2名の対応に追われた・・・。
翌日。
二日酔い気味の2名を含む4人対戦は、凄惨な結果になった・・・という。
end