「ええっ?じゃあ君は、いつも手ぶらであの子に会いに行ってるのかい?」
「会ってるんじゃない。戦いの指導をしてやってるだけだ。」
「・・・同じことじゃないか・・・。」
大仰に溜息をつかれる。
かつてのライバル、いや現在もそうなのだが・・・、普段は本に囲まれてへらへらしている目の前の人物が、
今は珍しく、あからさまな非難の色を隠そうともしない。
ゼネスは忌々しげに、目の前の冷めかけたコーヒーを一気に呷った。
酸味の強い味が、口内に広がる。
僅かに顔をしかめるが、目の前の人物は容赦しなかった。
「まさかとは思っていたけど、君がそこまで気の利かない男だとは思わなかったよ。」
「・・・何だと!?」
「だってそうじゃないか。ソルタリアに留まってる間だって、他の世界に行っては覇者候補と戦ってたんだろう?
帰りにそこのお菓子一つくらい、手みやげに持って行ってあげればいいのに。」
「何で俺がそんなことしなくてはならんのだ?」
「別に良いんだよ、理由なんて無くたって。ソルタリアの覇者候補は女の子なんだろう?
多分お菓子とか、好きだと思うよ?」
「だから何でそんなこと・・・・・。」
「だからさぁ・・・。会う度にただ戦ってばかりいるんだろう、君たちは?
まあ・・・君はそれで満足かもしれないけど、相手の子はどうだろうね?
こーんな恐ーいおにぃさんと、ただひたすら戦って・・・。
たまには、甘ーいお菓子でご機嫌とっといた方が良いんじゃない?」
人差し指で目尻をつり上げて見せる。
こいつ、とことんおちょくる気か・・・!?
怒鳴り散らしてやりたいのを辛うじて堪え、ふいっと外方を向く。
「ふん。あいつがそんな玉かよ。」
「・・・それはどうかな?単に、君が気付いてないだけじゃないのかい?」
ゼネス、とうとうブチ切れる。
「な、何だとー!?」
「まあまあ。そう怒らない怒らない。
・・・というわけで、そんな親友のためにこういう物を用意したんだけどな。」
「誰が親友だっ!?」
食ってかかるゼネスの眼前に、ネイティオは藍色の紙袋を差し出す。
ご丁寧に、赤いリボンが添えられている。
「あはは、まあそんな細かいことは気にしない。
せっかくだから、ここネイビスはユーロフェルン大陸一と謳われている名店・
スターゲイザーのクッキーを君に授けよう。これをソルタリアの彼女に渡してあげなよ。」
「だから、何でそんなことを・・・。」
「あ、良いんだよ別に。正〜直に、僕からのプレゼントだって言っちゃって。」
「・・・・・・・・・。」
「あはは、そう恐い顔しない。全く、君は素直じゃないねぇ・・・。」
「余計なお世話だ!」
いちいち突っかかるゼネスに面白半分で対応していたネイティオが、急に真剣な顔つきとなる。
「そうそう、言っておくけど・・・それ。結構高かったんだよ。何たって期間限定のレア物だからね。
もしも途中で捨ててしまったり君1人で勝手に食べたりしたら、
イビルブラスト・テンペストにマジックボルトその他諸々が飛ぶから。
あるいは、僕のグレイに誘拐されるかもしれないから、せいぜい気をつけることだね。」
にっこりと、いつもどおりの穏やかな笑顔。
しかし口をついて出てくるのは、穏やかな表情から想像もできないような物騒な言葉。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やりかねない。こいつなら本当にやりかねない。
のほほんとした顔して、スペルに関して全く容赦しないからな・・・。
げんなりとしたゼネスは、渋々藍色の袋を掴み、席を立つ。
「ちゃーんと彼女に渡すんだよー!」
「・・・くどいっ!!」
背中に突き刺さる言葉は、何故かマジックボルトより鋭く痛く感じる。
大仰に溜め息を零し、とぼとぼと海上神殿・・・と言うにはあまりにも簡素な建物を後にする。
しばらく海岸線に沿って歩いた後、ゼネスは左手を翳して時空の扉を開き始めた。
向かう先は主神ソルティスの治める世界、ソルタリア。
「彼女」のいる世界へ。
「こんにちは!ゼネスさん、今日もよろしくお願いします!」
「・・・ああ。」
明朗な声と、日溜まりのように温かい笑みに迎えられる。
ソルタリアはデュナン村。
丘の上。ひときわ目立つ大樹の陰で、フィーは1人待っていた。
彼女の仲間達は、いつも離れた風車小屋から戦いを見守っている。
既に指定位置で待機・・・と言うところか。
いつもならここでカード勝負を始めるところなのだが、半ば強引にネイティオに持たされた物を一刻も早く手放したくて、
手に持っていた藍色の袋を無言でフィーに突きつけた。
「?・・・何ですか、これ?」
「・・・・・やる。」
「・・・はい・・・?」
案の定、フィーはきょとんと首を傾げてくる。
あの野郎・・・次に会ったら叩き潰す!絶対に!!!
みるみるうちに、苦虫を噛み潰したような表情になる。
一方のフィーは、恐る恐る袋を受け取った。
「あ、ありがとうございます。えーと・・・開けてみても、良いですか?」
「好きにしろ。」
「・・・はいっ。」
・・・ネイティオの奴は名店の菓子だとほざいていたが、これで妙な物だったらぶっ飛ばす!必ず!!!
ぎりり、と握り拳を固める。
「・・・うわあ・・・!」
藍色の袋から姿を現したのは、透明な袋に入った2種類のクッキー。
ココアクッキーにパウダーシュガーをまぶした物と、ローストココナッツを織り交ぜて焼かれた物。
本当に期間限定のレア物かと疑うような、ごくありふれたクッキーのように見えるのだが・・・。
「あのっ、本当にこれ・・・頂いちゃって良いんですか!?」
「ああ・・・って、そんなに嬉しいのか?」
にこにこと嬉しそうに笑うフィーに、ついそんな質問を投げかける。
「え?・・・・あ、すみません・・・。
実はこういうのって、あまり食べたこと無いんです・・・。」
恥ずかしそうに肩を竦める。
「私がお世話になった神殿ではお菓子を食べる習慣はほとんど無かったですし、
旅の間は無駄遣いできませんから、こういうお菓子は極力控えているんですよ。
・・・たま〜に、大きな街ではセレナに付き合って食べに行ったりしますけどね。」
「・・・そうか・・・。」
正直、これほど喜ばれるとは思わなかった。
「多分お菓子とか、好きだと思うよ?」
ライバルの言葉が鮮明に蘇る。
かなり、相当癪に障るが、結局奴の言葉は当たっていた訳で。
しかもここまで喜ばれたのなら。
・・・・・・たまには持ってきてやっても良いか。
「まぁ、子供をあやすには丁度良いだろう・・・。」
「・・・?何か言いましたか?」
「いや、何でもない。」
そんな、言い訳がましいことを呟くのだった。
HAPPY END?
タイトルは、
「実験的お題の箱庭。」様から。