水辺の小さな村。
大らかで心優しいが勇敢なダッククランの民が住む村。
小さな湖の中央に建物がある、珍しい場所。
のどかな雰囲気に、つい張りつめていた気が緩む。
「・・・やれやれ、今日も無いのか・・・。」
道具屋の商品を一通り眺めて、ジョー軍曹がほんの少し肩を落とす。
「掘り出し物情報に間違いは無いはずなんだがな・・・。」
恨めしそうに左手の「掘り出し物リスト」に視線を落とす。
「仕方がない。次回に期待しよう。」
冷静に、だが冷たい響きが出ないよう気を配って、クリスが声をかける。
「そうだな。じゃあ、交易所で光るたまを売ってくるか。」
「わかった。そうしよう。」
つい笑みを零しそうになるのを辛うじて堪え、真剣な面持ちで言葉を返す。
こ、今回は交易と掘り出し物を手に入れること、そして情報収集が目的だ。
決して浮ついた気持ちでいてはいけない。
ましてや、あのエースとかいう男が言ったような、で・・・「でぇと」などでは、断じてない!
・・・それにしても・・・今日も軍曹どのはきりりとした目元は涼しげで、
柔らかそうなふかふかの羽毛はとても温かそうだ。
ダッククランの民は皆凛々しいが、その姿はとても愛らしくもある。
しかし・・・しかし、軍曹どのに勝る者など・・・・・!
・・・ああ、いけない。今はそのようなことを考えている場合ではないというのに・・・!!
1人葛藤に苦しむクリスであったが、油断するとつい顔が綻んでしまうのは止めようがなかった・・・。
ハルモニアの侵略を防ぐため、長い間啀み合ってきたシックスクランとゼクセンの民が手を結び、
新生「炎の運び手」を結成して、既に二月ほど経っただろうか。
最近では民族の違いから起こる小競り合いなどがすっかり無くなり、
同じ目的のため共に手を取り合っている。
敵に回すと厄介だが、味方でいると何と心強いことか。
それは、シックスクランの民もゼクセンの民も口にこそ出しはしないが、
密かに思っていることであった。
新生「炎の運び手」の本拠地・プレアデス城は商業の自由地を目指している。
しかし、長年財政難に苦しみ、城と言ってもあちこちが破損しているため
お世辞にも快適な場所とは言いがたい。
戦争をする上でも生活をしていく上でも、資金は多い方が良い。
そこで、現在はハルモニア軍に目立った動きが無いという偵察隊の情報から、
炎の英雄ゲド以下6名の遠征部隊及び偵察隊、本拠地周辺の警備に当たる者以外は、
交易でお金を稼ぎつつ掘り出し物の防具や紋章球などを入手するため、
少人数で手分けして各地を飛び回ることとなった。
今回、ダックの村を担当するのはダッククランの英雄ジョー軍曹と、ゼクセンの銀の乙女クリスであった。
情報収集はあくまでも目立たず、慎重に行うべきであり、ただでさえ「鉄頭」と忌み嫌われていた
ゼクセン騎士の鎧姿ではダッククランの民を威圧しかねない。
そんな理由もあって、クリスはゼクセン騎士の証である銀の鎧を身につけず、
豊かな銀の髪を下ろし、身軽な私服姿となっている。
交易所で光るたまを売却し、売上金を受け取る。
「さて・・・。あとは情報収集だが、ここは小さな村だし、別行動を取るまでもないな。
こっから宿屋・道具屋を回って鑑定所に寄ってから学術指南所へ行こう。」
「わかった。道案内をよろしく頼む。」
「ああ、任せておきな。
・・・もっとも、案内を必要とする程広い村ではないがな。」
両手を広げて、ジョー軍曹は肩を竦める。
「だが・・・ここはとても良い村だな。
今更こんなこと言うのは不謹慎かもしれないが、ここにいると・・・心が落ち着く。」
微かに目を細めてクリスが見渡した先には。
くるくる回る水車を一心に眺める者。
魚取りに精を出し、今日は大漁だったと笑いながら話す者。
宝くじが外れたと肩を落とす者。
ここだけ、時間が緩やかに流れているような不思議な感覚に見舞われる。
戦いが終わったら、この地でゆっくりと羽を伸ばす・・・というのも悪くない話だ。
かつて敵対していた者が、今更何を言うか・・・と突き放されるのを覚悟していたクリスだったが。
「・・・そうかい? あんたにそう言ってもらえると、嬉しいね。」
目の前の相手は特に気を悪くした風でもなく、いつものように陽気に笑ってくれる。
「ぐ・・・軍曹どの・・・?」
「さあ、時間はあまり無いぞ。
ここでのんびり過ごしたいのなら、さっさと情報収集を済ませてしまおう。」
そう言って、不意に手を引かれる。
肌理が細かく柔らかい羽毛に触れられ、ぱっとクリスは顔を赤らめるが、
ジョー軍曹は全く気付いていない。
「わ・・・わかった・・・。」
やや上擦った声がどうにも恥ずかしい。
出かける前に、本拠地でエースに言われた「でぇと」という言葉が再び頭を過ぎる。
浮ついた気持ちを悟られないよう、黙ってジョー軍曹の後をついて行くクリスだが。
(どうか・・・今日一日だけは・・・。
こんな気持ちでいることを許してほしい・・・。)
神にでもゼクセン・グラスランドの民にでも騎士仲間にでもなく、
ただ目の前を歩く男性にのみ、心の中で詫びるクリスだった。
HAPPY END?
タイトルは、
「実験的お題の箱庭。」様から。