23:泡沫
夕暮れの公園で、出店を見かけた。
甘く香ばしい香りが、公園を包み込んでいるように感じるのは、
お腹が空いているからだろうか?
遊んでいるはずのガッシュを迎えに行くため、
清麿は公園へ向かって歩みを進めた。
「ガッシュー!そろそろ晩飯だぞ!」
公園の入り口で清麿はガッシュに声をかけたが、ガッシュはこちらを向こうとしない。
「・・・なんだ?聞こえなかったのか?」
背を向けたままのガッシュに近づいていった。
「ガッシュ、どうした?そろそろ帰るぞ・・・?」
小さな肩をぽんとたたき、ガッシュの顔を覗き込んだ。
ガッシュは、険しい表情で一点を見つめていた。
「どうした?何があるんだ・・・?」
ガッシュの視線を追いかけようとしたその時。
「・・・清麿・・・。」
不意にガッシュの声が聞こえてきた。
「何だ?」
「私に・・・たいやきを買ってくれぬかの・・・?」
ガッシュの指差す先には、たいやきの出店。
「たいやきって・・・ガッシュ、もうすぐ晩飯だぞ?」
「・・・わかっておる・・・一つだけで、良いのだ・・・。」
一瞬、ガッシュの瞳が曇ったような気がした。
「・・・しょうがないな、一つだけだぞ。」
と念を押して、清麿はたいやきの屋台へ向かった。
「済まぬな、清麿。」
清麿の背に向かって呟くガッシュ。
聞こえていたのか、背を向けたまま清麿は右手を挙げた。
「ほら。熱いから気を付けろよ。」
焼きたてのたいやきをガッシュに差し出した。
「ウヌ。ありがとうなのだ、清麿・・・。」
ガッシュは公園のベンチにちょこんと座っていた。
ちょっと目を離すとすぐにどこかへいなくなってしまう、
好奇心旺盛で遊び盛りのガッシュには珍しいことであった。
ガッシュは清麿からたいやきを受け取り、一口囓る。
ガッシュが食べ始めたのを見て、清麿も自分の分のたいやきを口にした。
「美味いのだ・・・。」
「あぁ、そうだな。」
しかし、そう言ったきり、ガッシュがたいやきをじっと見つめたまま、動かない。
「初めて、ダニーに会った時、たいやきを一つ分けてくれたのだ。」
「そうだったのか・・・。」
「最初に会った時は、いきなり攻撃を仕掛けてきて、悪しき者かと思ったのだが、
本当は優しく、腕っぷしが強く、とても頼りになる者であった・・・。
シェミラ像を取り戻す時も、常に私の盾となってくれたのだ・・・。」
たいやきを握りしめたまま、ガッシュは話し続ける。
清麿は一瞬、ガッシュが泣いているのかと思ったが、振り向いた先には、
険しい表情のガッシュがたいやきを見つめ続けていた。
「ダニーは、・・・コルルやヨポポ達は、今頃魔界でどうしているかの・・・。」
「・・・・・。」
「今の王様や、魔界に戻った悪しき者共にいじめられてはいないかのぉ・・・。」
「・・・ガッシュ?」
「私は、やさしい王様になりたくて闘っている。もし私が負けても、
ティオやウォンレイ達の誰かが、私の代わりにやさしい王様に
なってくれると思っておる。」
「・・・・・・・。」
「しかし、私は・・・絶対に、絶対に・・・負けたくないのだ・・・。」
「・・・わかってる。」
清麿はガッシュの方を見ずに、その頭をそっと撫でた。
「魔界に戻れば、皆に会えるやもしれぬが・・・、私は、
・・・私はもう一度、この世界で皆に会いたい・・・。
もう一度、ダニーと一緒にたいやきを食べたり、
コルルと一緒にバルカンとティーナと遊んだり、
ヨポポと楽しく踊ったり・・・したいのだ・・・。」
夕日に照らされたガッシュの顔には、一筋の涙がこぼれた。
そして、また一口、たいやきを囓った。
清麿はガッシュの頭を撫で続け、ガッシュの気の済むまで、側にいてあげた。
自分の本が燃やされれば、魔界へ帰らなければならない。
それはなんて、辛く厳しいルールなのだろう。
END