26:おでこ





「行って参ります、城主殿。」
「はい・・・どうか、気を付けてください・・・。」


炎の英雄ゲド率いる「炎の運び手」は、迫り来るハルモニアの大軍に備え、
一人でも多くの仲間を得るため、グラスランド各地を飛び回っていた。
今回、情報収集と味方のレベルアップも兼ね、クプトの森を超えて
チシャの村へ遠征に出かけることにした。
今回の遠征メンバーは炎の英雄ゲドを筆頭に、ジョー軍曹、オーギュスタン、シバ、
フレッド、パーシヴァルにゴロウの7名。
出発まであと数刻、という時に、パーシヴァルは
プレアデス城奥に接岸している船の一室へ向かった。
そこには、炎の英雄にかつての自分の部屋を譲ったトーマスがいる。

「今回は、少し長い遠征になりそうです。」
「そうですね・・・城の方は僕たちみんなで守りますから、どうか安心してください。」
本当は、パーシヴァル達と一緒に遠征に行きたかった。
でも自分には城主としての仕事が山積みだったし、
何より足手まといになるのが目に見えている。
『ついて行きたい』と言いそうになるのをぐっとこらえ、
笑顔でパーシヴァルを送り出そうとする。
「あ、あまり無理しないで、ください・・・。怪我とか、しないように・・・。」
トーマスの部屋を辞そうとするパーシヴァルに、俯き加減でトーマスは呟いた。
「わかりました。」
パーシヴァルは柔らかく微笑むと、栗色の髪からのぞくトーマスの額にそっと唇を寄せた。
突然のことに顔を真っ赤にし、身を固くするトーマス。
想いが通じ合ってから幾度となく繰り返したこの行為に、依然として慣れない若き城主に
くすりと笑みを零すと、
「帰ったら、この続きをいたしましょう、トーマス。」
彼にしか聞き取れない位の声で、そっと囁き、再び額に口付ける。
「あ、あわ、あの・・・」
すっかり固まってしまったトーマスにもう一度微笑むと、
パーシヴァルは一歩下がってゼクセン式の挨拶をして見せた。
「では、行って参ります、城主殿。出来る限り早く、戻ってきます。」
行ってしまう。しばらくは会えないんだ。
咄嗟に、トーマスはパーシヴァルの左手を掴んだ。
鎧がひんやりとして、熱を持った手に心地よさを与える。
「行ってらっしゃい・・・どうか、早く帰ってきて、くださいね・・・。」
普段人前では滅多に見せないトーマスの、ささやかだが精一杯のわがまま。
それに応えるように、パーシヴァルはトーマスの前髪をかき分け、唇を落とす。
「承知しました。」
極上の微笑みを残すと、パーシヴァルは城へ向かって歩き出した。
パーシヴァルの姿が見えなくなると、トーマスは自分の額にそっと触れた。
そこはまるで高熱を出したかのように熱く、その熱はじわりと全身に広がっていった。
きっとパーシヴァルが戻ってくるまで、この熱は治まることはないんだろうな、と
ぼんやりトーマスは考えた。

「どうか・・・気を付けて・・・。」
祈るような呟きは、湖から吹く風にかき消されたが、
その想いはきっとパーシヴァルに届いているだろう。



END


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