31:神様





「どうして、ゼネスさんは神様になったんですか・・・?」
「・・・は?」


のどかな田舎村デュナン。
初夏を思わせる日差しは強い。

ソルタリアとは異なる世界からやって来たという亜神ゼネスとの何度目かの対戦が終わり、
すっかり恒例となってしまった、フィーの質問タイムが始まった。
最初はあれこれ質問してくるフィーをうざったいと思っていたゼネスだが、
フィーの熱意と好奇心(むしろこちらの方が強かったのだが)に押され、
『自分に勝てた時だけ、一つだけ質問を許す』と半ば無理矢理約束させられた。

歴戦のセプターであるゼネスに対し、これまで苦戦はしながらも8連勝を続けているフィーにとって、
この質問タイムは待ちこがれていた時間でもあった。
今まで「ゼネスの生涯のライバルって、どんなカードを使っていたか?」や
「○○の世界では、どんなカードが流行っていたか?」など様々な質問をしてきたフィーだったが、
今まで聞こうと思って憚られていた質問である、「ゼネスが神になった理由」を、
今回思い切って尋ねてみた。


「・・・・・俺は、ソルティスやカルドラのような神達とは、違う。」
「・・・はい。」
竜眼を覆う前髪をかき上げもせず、ゆったりと回転する風車を眺めながら、
ゼネスは独り言のように呟いた。
ゼネスの隣に腰を下ろして真剣な瞳で見上げてくるフィーと視線を合わせるが、
すぐにその視線を逸らした。
最近のゼネスは、この瞳が苦手になってきている。
彼女の真摯な姿勢が、どうにもくすぐったく感じられるのである。

「俺にとっては、戦うことこそが生き甲斐だ。
戦いの中でこそ、己自身を高めることが出来る。だからこそ、
様々な世界を渡り歩くことを望んだのだ。」
「・・・元々いた世界に、帰ることはあるんですか?」
「無論だ。」
ゼネスは、デュナンの田園風景に視線を移したままだったが、それでもフィーは
まっすぐにゼネスの、人のそれとは異なる眼から視線を逸らすことはなかった。
「俺には生涯のライバルと呼べる男がいる。
そいつは、今では神となって忙しい日々を過ごしているようだがな。
奴はカルドセプトの盟約により新たな世界を創造した。
その時に、この俺に『力を貸して欲しい』と頼んできたんだが・・・。」
「・・・断っちゃったんですか?!どうして・・・?」
思わず身を乗り出すフィーを呆気にとられながら見返すゼネスは、にこりともせずに返す。
「そこには、戦いが無いからだ。」
「戦い・・・?」
きょとん、と首を傾げるフィーに、一つ溜息をこぼす。
「奴が望んだ世界は、争いの無い平和な世界。
カルドセプトの戦いは、余程のことでない限り、行われない。
そんな世界に残ったところで、どうなる。
俺にはそんな世界に、意味は無い。」
「・・・そっか・・・。」
「だから、俺はカルドラから『世界の覇者たる資格を持つセプターの力量を試す』という
役割を持ちかけられた時は、迷うことなく引き受けた。
戦いの中で生きることこそ、俺の望む世界そのものだからな。」
ゼネスの言葉を、フィーは何とも言えないような複雑な表情で受け止めた。


木陰に腰を下ろす2人の間を、心地良い風がすり抜けていく。


「私は・・・別に神様になりたくて闘っているんじゃない。」
掠れたような声で、フィーは呟いた。
「自分にその資格があるかなんて、わからないよ・・・。」
「・・・そうか。」
初めて2人が戦った時、フィーを「覇者たる資格を持つセプター」と判断したゼネスは、
己の持つ力をフィーに伝えようと決意した。
それは、同じセプターとして、戦いに身を置く者として、通じるものがあったのだろう。
だから、フィーとの戦いでは、全く容赦がない。
ダメージスペルも移動侵略も、ガンガン仕掛けてくる。
本人にその意識は全く無いが、厳しい戦いを通じてフィーの成長を手伝っているゼネスであった。

「では、盟約に背くつもりなのか?」
「・・・それは・・・。今の私にはわからない。
ただ、・・・私はもう少しこの世界を知りたい。
自分の力がどれほどのものか、知りたいと思う。」
晴れ渡った空を見上げ、自分に言い聞かせるように、フィーは言葉を紡いだ。
「まぁ、それも悪くはない。最終的に決めるのはお前自身だからな。
まだ時間はある。よく考えることだな。」
ぽん、とフィーの肩を叩く。
戦いで見せるそれとは違う、穏やかな微笑みを浮かべて。
まるで、フィーの成長を楽しんでいるかのようだ。
(・・・今までこんな風に、笑ってくれたこと、無かった・・・。)
その笑顔を、フィーはただ見つめるしかなかった。

「・・・喋りすぎた。帰るぞ。」
いつの間にか、西の空が淡いオレンジ色に包まれている。
ゆっくりと腰を上げたゼネスは、マントに付いた草を払い落とした。、
「・・・そうですね、私も、そろそろ行かなくちゃ。
・・・みんなを待たせているし・・・。」
遙か遠くで、自分に向かって手を振る仲間達の姿を認めたフィーは、
いつものようにそっと手を差し出した。
「・・・また、勝負してくださいね。」
別れ際の、いつもの台詞。
最初の頃はその手を取ることの無かったゼネスであったが、
いつしか彼女の握手に応えるようになった。
「次は、必ず勝つ。」
「私だって、負けませんよ?」
不敵に笑うゼネス。
にっこりと、あどけない笑顔のフィー。
こんな風に笑い合えるようになったのは、いつからだったろう・・・。


仲間の元へ走り去ったフィーの後ろ姿を、ゼネスはいつまでも見つめていた。
「・・・・ふん。俺としたことが、どうかしている・・・。」


いつの間にか、フィーのペースに乗せられてしまっていると気付きながらも、
それもまた悪くはない、と感じるのは何故だろうか・・・。

この世界を離れるのは、あいつが神になることを選ぶかどうか決めてからでも遅くはあるまい。
時間はまだ、あるのだからな・・・。
まるで自分に言い訳でもしているかのように、ぼそっと呟いた。



END


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