邂逅
優しかった母の瞳が、悲しみと絶望の色に曇っている。
厳格だが自分の話をちゃんと聞いてくれた父は、唇を噛み拳を固めて俯くばかり。
それまで自分を温かく見守ってくれていた友や村人達の視線は、今では異端の者に対する
恐れと嫌悪に満ちている。
何故、こんな事になったのか。
私はただ、村を守りたかっただけなのに。
カーテンの隙間から差し込む日差しは強い。
朝日の眩しさに、ルミナスはぼんやりと夜が明けたことを理解した。
「・・・また・・・あの時の夢か・・・。」
胸のつかえをも吐き出すように、ゆっくりと息を吐く。
肩にかかった深緋の髪が一房、ぱさりと音を立てて胸元に落ちる。
3日振りに野宿から解放された身体は、しかし、旅の疲れを未だ引きずったままだ。
ふかふかのベッドも肌触りの良いシーツも、彼女に安眠を与えてはくれなかった。
野宿であれ宿屋であれ、ルミナスは連日同じ夢に苛まれていた。
小さな港町センブルス。
朝の早い時間帯から人々の活気に満ちあふれた町。
漁から戻ってきた男達や、市場の店主の威勢の良い声が賑わしい。
「これから・・・どこへ行こう。」
古びた地図に視線を落とし、ルミナスは小さく溜息をつく。
宿屋の食堂は、朝食の時間にはまだ早いからか、人影はまばらだ。
少し固めの黒糖パンを千切っては、コンソメスープに浸し、無理矢理口に運ぶ。
はっきり言って、食欲は無い。
しかし、例え少しでもお腹に収めていないと旅は続けられないことを、彼女は知ってしまった。
旅に出た4日目で、ルミナスは食物を拒絶する胃袋をそのままに旅を続け、
倒れかけたことがあったからだ。
村を追われて、何日が経過したろう。
ルミナスは、小さな村フェルナンドに生まれ育った。
子供の頃から活発で、男の子に混ざって村はずれの洞窟の探検や、
畑仕事の手伝いをするその表情には、常に輝くばかりの笑顔があった。
その笑顔が消えたのは、あの忌まわしい事件があったから。
突然、盗賊団がこの小さな村に襲いかかってきた。
彼らマジェンタ盗賊団は、食料やお宝、あわよくばカードを奪うべく、
各地の町や村を次々と襲撃していた。
村の男性やルミナスは彼らを追い払うため、農耕道具を武器に代えて立ち向かったが、
セプターである盗賊団の頭領がタイガービートルやグールを召還し、彼らに村を襲わせた。
偶然、盗賊団が落とした盗品のカードにルミナスが触れた時、彼女のセプター能力が開眼した。
無我夢中で駆使したクリーチャーで盗賊団を何とか追い払ったルミナスだったが、
彼女を迎えたのは、村人の恐怖と憎しみの視線だった。
フェルナンドの村人は、昔からセプターを恐れ、迫害していた。
そのような環境で育てられたルミナスもまた、「セプターは悪い奴」と思いこんでいたが、
まさかその自分がセプターだったとは・・・。
その時から、彼女はフェルナンドの村を追われた・・・・・。
これまでの旅は、自分の居場所を失って、何のあても目的も無くただそこにある道に沿って
歩き続けたに過ぎない。
「いつまで、こんな事続ければ良いんだろう・・・。」
コンソメスープに映った自分の瞳が暗く澱んでいることに気付いて、ルミナスはまた溜息を零した。
宿屋で宿泊代を支払い、ルミナスはこの賑やかな雑踏へ身を投じた。
今回もまた道なりに進むしかないと決心し、センブルスから観光小都市アルタラへ南下し、
デュナン村へ進むことにした。
陽気に笑う村人とは対照的に、ルミナスの心は依然として重く沈んだままだ。
途中、市場で非常食と薬草を買い、センブルスの町はずれにさしかかった時。
「ちょっと待ちな。」
背後から低く厳つい言葉が投げつけられた。
ゆっくりと声の方へ向き直ったルミナスの瞳に、冷ややかな色が宿る。
ああ・・・またか。
今となっては、決して珍しくなくなった、この光景。
その先の言葉も、もはや聞き飽きるくらい聞かされてきた。
「てめぇのカード、1枚残らず置いていきな。」
ならず者3人が下品な笑みを張り付かせている。
中央に立つ髭を生やした男と黒髪の男がセプターであることを、
ルミナスは本能で理解してしまった。
・・・やはり。
セプターの言うことはみんな一緒だ。
みんな、己の欲のためにカードを使い、奪うだけなんだ。
ルミナスは彼らを醒めた目で見やり、溜息をついた。
セプター能力なんていらない。
こんなカードなんて必要ない。
手放せるものなら、いつだって手放してやりたい。
だが、目の前の連中は、どう考えてもカードを悪事に使っているようにしか見えない。
こんな奴らにカードを渡したら、フェルナンド村のような惨事が起こりかねない。
だから、彼らに対するルミナスの答えも、いつも決まっている。
「断る。」
氷のような冷たい視線とともに、ならず者に突き返してやった。
「こ、こいつ!女だと思って下手に出れば、つけあがりやがって!!」
怒りにまかせて、ならず者の一人が拳を振り上げた時。
「はーい、そこまで!!」
いつの間にかならず者の背後に、一人の青年が立っていた。
ダークブラウンの髪に、日焼けした肌、精悍といえる顔立ち。
青年は、拳を振り上げた男の腕を掴み、ぎりりと捻り上げた。
「ぐあっ!!い・・いてて・・・!!」
「何しやがる!?」
黒髪の男が青年に殴りかかろうとしたが、青年は腕を掴んでいる男を盾にして交わした。
「ぎゃあ!!」
「ぐあっ!!しまった・・・!!」
大の字になって倒れる男。
一方、殴った方の男は呆然としている。
「全く、大の大人が3人も揃ってみっともない。しかも全然下手になんか出てなかっただろーが。」
青年は呆れたように腕を組んで、男達を見渡した。
(この人も・・・セプター・・・?! しかも、かなり強い・・・。)
ルミナスは警戒の色を顕わにした。
「大丈夫かい?」
青年はルミナスににかっと笑いかけたが、ルミナスは警戒を解こうとしない。
余計なことを・・・と言いかけたその時。
「こ、こいつ!」
「やっちまえ!!」
怒りの矛先をルミナスから青年に向け、髭の男と黒髪の男が青年を挟むように飛びかかったが、
青年は彼らの拳をひらりと交わし、無情にも拳はならず者双方の顔面に命中した。
黒髪の男は大地に倒れ込んだが、髭の男は頬を押さえながらわなわなと怒りにうち震えている。
「何やってんだか・・・・・。」
またしても、呆れるように溜息をつく青年。
「・・・っ、もう我慢できねぇ!これでもくらえっ!!」
髭の男が、唐突に懐から1枚のカードを取り出した。
「リザードマン、こいつらを串刺しにしてしまえ!!」
カードが光を放ち、リザードマンが雄叫びとともにその姿を現す。
リザードマンはカッと目を見開き、その鋭い瞳は標的である青年を捕らえた。
「くっ・・・お前も行けっ!スケルトン!!」
倒れていたはずの黒髪の男が、片膝を立ててクリーチャーを召還した。
「し、しまった・・・こんな目の前に!?」
青年もカードが収められたブックに手を伸ばしかけたが、リザードマンとスケルトンは
既に青年とルミナスの眼前に迫っていた。
「この俺をバカにした罪は重いぞー!!」
高らかに笑う髭の男。黒髪の男も勝ち誇ったように笑っている。
咄嗟に青年はルミナスを庇うように立ちはだかった。
「な・・・っ!!無茶な・・・!!」
青年の背後から切迫したルミナスの声が響くが。
「まぁ、何とかなるだろ。」
ルミナスを振り返りもせず、青年は他人事のような言葉を返す。
その時。
「エース!!あの人達を守って!!」
青年とルミナスの前に光が現れ、光は深紅の炎を纏った恐竜に姿を変えた。
リザードマンのスピアとスケルトンの剣は、無情にも恐竜の炎に焼き尽くされた。
「なんだとっ!?」
明らかに髭の男は狼狽している。
「だ・・・誰だ、邪魔しやがるのは!?」
黒髪の男が視線を巡らした。
「よ・・・良かった〜間に合って・・・!!」
ルミナスと青年の元に、一人の少女が駆け寄った。
ライトブラウンの髪がぱさりと、少女の頬にまとわりついた。
青紫のマントをなびかせてぱたぱたと走る少女の顔には、あどけなさが残っている。
「助かったよ。ありがとう。」
「・・・・・・ありがとう。」
青年とルミナスは、少女に感謝の意を伝えた。
ルミナスは、新たなセプターが自分たちを助けてくれたことに、警戒する間もなく、
つい口から感謝の言葉が出てしまった。
実際、それほどのピンチだったのだ。
少女は、紅の恐竜をカードに戻し、にっこりと微笑んだ。
「お安いご用ですよ。・・・それにしても、何です?あの人達は?!」
「この子に因縁付けてたのを止めに入ったんだが・・・カードまで使ってくるとはな・・・。」
青年はルミナスを指差した。
「もうっ、酷い人たちですよね!?同じセプターとして、許せませんよ!!」
少女は、まるで自分が被害にあったかのように、ぷりぷりと怒り出した。
「全くだ。あぁいう奴らがいるから、セプターはみんなに恐れられるんだ。」
青年も腕を組んで、憮然としている。
(この人達・・・・・今まで会ったセプターと、違う・・・・・?)
ルミナスがこれまで出会ったセプターは、ほとんどが盗賊まがいの連中だった。
会うなりカードをよこせと脅し、断れば問答無用で戦いを仕掛けてくる。
そんな連中ばかりだったのだ。
「さーてと・・・人通りも無いことだし、そろそろあいつらを懲らしめなくちゃな。」
青年が不敵に微笑んだかと思うと、ゆったりとした仕草でブックに手を伸ばした。
「お、お手伝い・・・しましょうか?」
恐る恐る少女が申し出たが、青年は片手で少女を制し、ならず者達に近寄っていった。
「一人で・・・戦うつもり?」
ルミナスも、さすがに心配になって青年に声をかけたが、
「なあに、さっきの醜態を返上しなくちゃならないし、あの程度の連中倒せないようでは・・・
俺の目的は達成できないからな。」
最後は辛うじて聞き取れるかと言うくらいの小声だったが、ルミナスは聞き逃さなかった。
「・・・・・・目的・・・・・?」
自分には無い目的を、この人は持っている。
ルミナスは、青年の背をただ見つめるばかりだった。
「さあーておっさん達、そろそろ反撃させてもらおうかな?」
青年はにやりと笑い、2枚のカードを空に向かって投げ上げた。
「力を貸してくれよ、コーンフォーク!ナイキー!!」
青年の声に呼応するように、愛嬌のある笑顔を振りまくコーンフォークと、
透き通るような肌を持つ勝利の女神ナイキーが、その姿を現した。
「うわ・・・あれがナイキー・・・私、初めて見るよ・・・!!」
少女は瞳を輝かせ、青年の召還したクリーチャー達を憧憬のまなざしで見つめた。
「私も・・・初めてだ・・・。」
少女につられるように、ルミナスもぽつりと呟いた。
「あのお兄さん、絶対に勝ちますよね!?」
「大丈夫。きっとあの人は勝つ。」
自分でも不思議なくらい、ルミナスはあの青年の勝利を確信している。
青年がならず者に向き直った時に感じた、強大な魔力。
それでいて、邪悪な気配は全く無い。
あの青年は、自分とは違って、きっと多くの戦いをくぐり抜けてきたのだろう。
攻撃力を上げる道具ハートフィブラを装備したコーンフォークが、
スケルトンに強烈なパンチを見舞う。
スケルトンはバラバラに粉砕され、カードの姿に戻っていった。
リザードマンのスピードを上回る俊敏さで、ナイキーが剣を振り下ろす。
攻撃をくらったリザードマンは、ナイキーの特殊能力であるマヒの効果を受けて、
身動きがとれなくなっていた。
ナイキーが再び剣を振るった。
リザードマンはマヒの呪いのせいで、指一本ぴくりとも動かすことが出来ない。
ナイキーの剣に切り裂かれたリザードマンは、再び、カードに封じ込められた。
「ば・・・バカな・・・!!!?」
「俺達のカードが・・・??」
彼ら自慢のクリーチャーが、あっという間に倒される姿を目の当たりにし、
ならず者2人は呆然と立ち竦んだ。
「まだ、勝負するかい?」
青年は二人を交互に見やったが、男達は自慢のクリーチャーを粉砕されたことが
余程ショックだったらしく、悪態を付きながらすごすごとその場を立ち去った。
いつまでも倒れている仲間を引きずる事も忘れて。
「やったー!!お兄さん強ーい!!」
「2対1でもあっさり勝っちゃうなんて・・・。」
少女とルミナスは青年に駆け寄った。
「おいおい・・・お兄さんてのは止めてくれよ・・・。ネイティオっていう名前があるんだからさ。」
ネイティオと名乗った青年は、照れくさそうにかしかしと頬を掻いた。
「ゴメンナサイ。私は、フィーって言います。まだセプターになって間もないから、
さっきお兄さん・・・じゃなかった、ネイティオさんのサポートできなくて・・・。」
フィーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「・・・私は・・・ルミナス。正直言って、驚いている。」
ためらいがちに、ルミナスは言葉を紡いだ。
「まぁ、困った時はお互い様って言うしな。気にすることはない。
それよりも、こうして会ったのも何かの縁だから、ついでに朝飯でも食べに行かないか?」
「えっ?ネイティオさん、朝ご飯まだだったんですか!!」
「さっきこの町に着いたばかりで・・・非常食をちょっと囓った程度だから、
・・・いかん、もう目が回ってきた・・・。」
「・・・だったら、早く町へ戻りましょう。」
腹部をさすりながら呟くネイティオを苦笑いしながら見つめ、ルミナスは町へ向かって歩き出した。
・・・笑うなんて、久し振りだ・・・・。
一人先を進みながら、ルミナスは複雑な心境になった。
フィーとネイティオは、ルミナスの後に付いていった。
「そっか・・・ネイティオさんは武者修行中、なんだ?」
生クリームがたっぷりと載ったフルーツケーキを手際よくフォークでカットしながら、
フィーが感心したように呟いた。
「まぁな。やはり町の外に出ないと、自分の実力はわからんからな。」
こんがりと焼けたハードトーストとスクランブルエッグを交互に口に運んでいたネイティオが、
手の動きを止めて答える。
「セプターになって、どれくらい経つんですか?」
「ん〜・・・、いつからだったろう?ガキの頃からカードいじってたからなぁ・・・。」
「すごい・・・子供の頃からセプターなんて・・・。」
尊敬と羨望のまなざしで、フィーが見つめる。
「親父とおふくろはウィンダム軍のセプターだったんだ。自分も立派なセプターになりたくて、
子供心に頑張ってたような気がするよ。」
「ウィンダム都市国家っていえば・・・数年前に戦争があったって聞いたけど・・・?」
ブラックコーヒーで満たされたカップを置いて、遠慮がちにルミナスが尋ねる。
「その通り。俺は運良く生き延びたけどな・・・まだガキだったし。
・・・親父とおふくろが守ってくれたからな。」
「・・・・・・じゃあ、ご両親は?」
「もういない。俺達を、町を・・・ジェム教団から守って・・・死んじまったよ。」
一瞬、ネイティオの瞳に暗い影が宿った。
「ごめんなさい・・・余計なことを聞いてしまって・・・。」
ルミナスは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ま、だから、武者修行とかカードを全部集めたいとか色々あるんだけどさ、
ジェム教団の連中に一泡吹かせてやりたいんだよ、ちょっとだけな。」
肩を竦めて、ネイティオは笑って見せた。
それは、さっきまでの陽気な笑顔と何ら変わりはなかった。
「私、ネイティオさんに、戦い方教えてもらおうかな・・・。」
ブルーベリーをフォークに掬ったまま、フィーが呟いた。
「私、セプターになってまだ日が浅いし、ネイティオさんとルミナスさんに戦い方を教えてもらったら、
もっと成長できるかなって思うんです。カードも、ほんの少ししか持っていないし。」
フォークを置いて、フィーがポケットからブックを取り出した。
ルミナスは、視線をコーヒーカップに落とした。
「・・・・・・私だって、カードはあまり無い。それに・・・。」
「・・・それに・・・?」
「私は・・・セプターでいることが・・・正直言って辛い・・・。」
言うつもりの無かった言葉が無意識のうちに口から出てしまい、
ルミナスは慌てて2人を見渡したが。
「そっか・・・ルミナス、あんたはセプターであることで、苦しい思いしてきたんだな。」
「ルミナスさん・・・。」
案の定、ネイティオもフィーも、気遣わしげにこっちを見つめている。
「あ・・・えと・・・その・・・。」
自分の一言で重苦しくなった雰囲気を何とかしようと試みるが、上手く言葉が出てこない。
「ルミナスさんっ!セプターって、そんなに悪いことばかりじゃないですよ!!
確かに、確かに・・・さっきみたいなおじさん達や悪い人達もいるけど、
この力で、逆に人々を助けてあげることだって、出来るんです!」
瞳に涙を浮かべ、ルミナスの手を取ったフィーが力を込めて訴える。
「人を・・・助ける・・・?」
「・・・そうだ。確かに、カルドセプトの力を利用して、悪事を働く奴は多い。
・・・ジェム教団なんか、最たる例だ。
けどな・・・クリーチャーに罪は無い。
カードは使う人の心によって、良くも悪くもなる。
実際に、力自慢のクリーチャーを使って建築物をつくったり、飛行クリーチャーで荷物を届けたり、
警護に使ったりする事だって有るんだ。」
真剣な面持ちでネイティオはルミナスに向き直った。
「・・・それに、立派なボディーガードになるじゃん?」
「・・・はあ?」
「あんただって、これまでクリーチャーに助けられたこと、有るだろう?」
「・・・・・そういえば・・・。」
野宿で心細い時、コアティを召還してそのふかふかのお腹に顔を埋めて泣いたことがあった。
野犬に襲われそうになった時、ソーサラーがその魔力で追い払ってくれた。
・・・要らないと思っていたカード達に、自分は何度助けられてきたことか・・。
「確かに、セプターってだけで毛嫌いする人々は多い。
でも、その力の使い方さえ間違えなければ、人々を守る剣や、盾にだってなる。
だからさ・・・もう少しだけ、頑張ってみたらどうだい?
クリーチャーが自分を助けてくれるように、あんたがクリーチャーを守るんだ。」
「・・・・・。」
「そうですよ!うちのエースだって、立派な私のボディーガードですよ!
それに、私だって・・・エースを助けてあげたいって、いつも思ってるんですから!」
「「エース?」」
「私のパイロドレイクです。あの子のカードに触れた時、私のセプター能力が目覚めたんですよ。」
にこにこと、屈託のない笑顔でフィーが答える。
胸につかえていたものが、じわりと溶け出してきたような気がする。
ルミナスは、柔らかく微笑んだ。
村を追われてから、本当に久しぶりの、心からの笑顔だった。
「・・・わかった。もう少し頑張ってみる。」
「本当かい!?」
「やったー!!ルミナスさん、頑張りましょうね!!」
「・・・うん。」
「よーし、それじゃあ、メシの後に練習試合をやろう!
・・っと、その前に2人とも、手持ちのカードを見せてくれないか?」
「いいけど・・・?」
「見せて、どうするんですか?」
「偉そうなこと言って悪いが、2人ともセプターになってまだ日が浅いって言ってたな?」
カフェオレを喉に流し込んで、ネイティオは2人を交互に見やった。
「うん」「はい」
素直に頷く2人。
「現在の2人の所有カードで足りないものを、俺のカードで補おう。」
「・・・それって・・・?」
「俺のカードを何枚かやるよ。」
「ええっ!?でもそれじゃあ悪いですよ・・・。」
「確かに、ただもらうっていうのは・・・。」
フィーとルミナスは遠慮しだしたが、ネイティオは一向に気にしていない。
「いいから、ケーキさっさと食っちまえ。ルミナスもだ、コーヒー冷めてるぞ。」
ネイティオの言葉に有無を言わせぬ迫力があり、大人しく従うしかない2人だった・・・。
セプターって、悪い人ばかりだと思っていたけど・・・。
ネイティオ・フィーと語り合っていくうちに、ルミナスは少しだけ、ほんの少しだけ
セプターが好きになれそうな気がしてきた。
そして、翌日・・・。
センブルスの町はずれに、3人のセプターの姿が見える。
「じゃあ、俺はこの町にもう少しとどまるよ。」
「私は、東の山を越えてティリスの村へ行こうと思います。」
「私は・・・観光小都市アルタラへ。」
「2人とも、頑張れよ。」
「ネイティオさんもね。」
「・・・道中、気を付けて。」
「俺のカード、大事につかえよ?」
「はいっ!もちろんですよ!!」
「大切に使わせてもらう。」
「・・・気を付けてな。」
「今度会ったときも、また手合わせしてくださいね。」
「・・・幸運を。」
3人は、名残惜しそうに言葉を交わし合ってから、それぞれの進む道へと歩き出した。
(ネイティオと、フィーか・・・。
この先、彼らのようなセプターに合えると良いけど・・・。)
センブルスの町に背を向け、アルタラへ向かって歩みを進めるルミナスの足取りは、心なしか軽い。
(いつかまた、彼らに会って勝負するっていうのも、悪くはないかな・・・?)
ささやかだが旅の目的が出来たことで、ルミナスの表情にも少しずつ笑顔が戻ってきた。
大丈夫。きっと歩いてゆける。
End