モノより、思い出。
「清麿〜。」
バルカン300と遊んでいたガッシュが、机に向かっている清麿に声をかけた。
「・・・・・。」
しかし、清麿からの返事は無い。
窓の外から、蝉の鳴き声が聞こえる。
空は突き抜けるように青く、雲一つ無い快晴。
清麿の学校が夏休みに入って、早くも10日近くたった。
清麿は夏休みの課題に取り組んでいるらしい。
「き〜よ〜ま〜ろ〜!」
清麿の座っている椅子をがたがた揺らし、ガッシュが再び声をかける。
「・・・なんだ?」
振り返った清麿の表情が、少し怖い。
ガッシュは一瞬びくっとなり、後ずさった。
集中しているところを邪魔されたからか、心持ち清麿の機嫌が悪そうだ。
「清麿〜。私と遊んで欲しいのだ。今は夏休みなのであろう?
いっぱい、いっぱい遊ぶ時間があるのだろう?」
「・・・あのなぁ、ガッシュ・・・。」
派手に溜息をついて、清麿は椅子ごとガッシュに向き直った。
「今は夏休みの課題をやっているんだ。
休みが長い分、出される課題もハンパな量じゃねーんだよ。」
「か・・・だい・・・?宿題って事か?」
「そうだ。例えばだな・・・。」
清麿は、今取りかかっている英語の問題集をガッシュの眼前に突きつけた。
「この1冊。夏休み中に仕上げなきゃならない。他にも、数学のペーパーが15枚、
読書感想文に美術館のレポートに・・・。」
英語の問題集を離し、課題の数を指折り数えてみせる。
「・・・・・よくわからぬが、大変なのだな・・・。」
清麿のうんざりした様子に、ガッシュも一緒になって渋い顔を見せる。
天才少年と言われている清麿であっても、今年の課題の多さには溜め息が出るばかりだ。
もっとも、7月末の時点で、清麿は既に課題の8割を終わらせているのだが。
「まぁ、こいつらをさっさと片付けてしまえば、心おきなく遊べるって訳だ。
だからな、ガッシュ・・・公園でみんなと遊んでこいよ。」
清麿の言葉に、腕を組み考え込むガッシュだったが。
「清麿、課題というモノは・・・楽しいのか?」
「・・・・・はぁ?」
突然のガッシュの質問に、清麿は間の抜けた返事を返した。
「私も、やさしい王様を目指すためには、遊んでばかりはいられぬのだろう?
だったら、私も、勉強というものを、しなければならぬのだろう?」
「・・・・・・・・。」
予期せぬガッシュの申し出に、ただ呆然とするばかりの清麿。
魔物といえどもガッシュはまだまだ子供で、遊びたい盛りである。
まさか『勉強』という単語をガッシュの口から聞こうとは、
清麿は全く予想していなかったのである。
「私も、清麿と一緒に、勉強というものをするぞ!!」
「あ・・・・・・ああ・・・。」
意気込むガッシュに、生返事の清麿。
「で、私は、何の勉強をすれば良いのかの?」
「・・・そうだなぁ・・・。」
清麿は天井を見上げて考えを巡らせた。
(難しいことは、絶っっっ対にガッシュは飽きるだろうな・・・。
そういえば、俺が小学校の頃って、どんな宿題出されたっけ・・・?)
「清麿?清麿、どうしたのだ?」
天井を見上げたまま微動だにしない清麿にしびれを切らし、
再びガッシュは椅子を揺すった。
「・・・・・そうだ!」
不意にがばっと視線を戻す清麿に、目をぱちくりさせて驚くガッシュ。
「ガッシュ、『絵日記』を書いてみないか?」
「え・・・にっき・・・?」
「そうだ!俺が小学校の頃に学校から出された宿題でな、毎日の天気や
その日の出来事を絵と文で残すんだ。どうだガッシュ、これなら面白そうだろ?」
清麿は、我ながら名案だと考え、笑ってガッシュに提案した。
毎日継続しなければならないが、いきなり難しいことをさせるよりは良いだろう。
それに、絵日記を書くことは、観察力の向上にもつながる。
やさしい王様を目指すためにも、物事を観察する能力を高めることは損ではない。
そして、ガッシュは時折クレヨンで絵を描いているので、絵を描く事は好きらしい。
まさに、ガッシュにはうってつけの課題といえよう。
「絵と・・・文・・。ウヌウ!確かに面白そうなのだ!!!」
瞳を輝かせてガッシュは頷く。
「よし、そうと決まったら、早速ノートとクレヨン・・・
いや、色鉛筆の方が手を汚さないから良いだろうな。
ガッシュ、ちょっと待ってな。」
清麿はおもむろに、押入に入っている段ボール箱を取り出した。
「え〜に〜っきえ〜に〜っき、た〜のし〜いな〜。」
ガッシュは即興で歌い始めた。
外で眠っているウマゴンが目を覚ますのではないか、というくらいの大声だったが、
ガッシュが嬉しそうなので、清麿はガッシュの好きにさせた。
「・・・よし、有ったぞガッシュ!色鉛筆だ!!」
段ボールの中身と格闘していた清麿が、ようやく目的の物を見つけた。
「ウヌウ、ウヌウ・・・!!」
ガッシュは弾けんばかりの笑顔を見せる。
両手で握りこぶしをつくり、ぶんぶんと振る。
「俺のお古だが、まあ我慢してくれ。それから、ノートはこれを使いな。」
清麿は24色入りの色鉛筆とノートを、ガッシュに差し出した。
「清麿、ありがとうの。」
心底嬉しそうに、ガッシュが清麿を見上げる。
「良いか、ガッシュ。毎日書くことに意義があるんだぞ。
サボって後でまとめて書くんじゃねぇぞ?」
「ウヌ、わかっておる!」
「それから、毎日同じ内容でもダメだ。」
「ウヌ!」
「必ず、その日有ったことを書くんだぞ。
例えば、庭のひまわりが咲いたとか、友達と遊んだこととか、
嬉しいこと、悲しいこと、楽しいこと・・・その日、ガッシュの心に残ったことを書くんだ。」
「わかった!清麿、私はちゃんと書くぞ!」
自分の胸に手を当て『任せろ!!』と言わんばかりのガッシュ。
清麿の表情が、自然と綻ぶ。
「よし。じゃあ、次の日の朝に、俺が絵日記を見てやる。」
「ウヌウ!清麿をうならせる日記を書くのだ!!」
「まぁ、張り切り過ぎないように頑張れよ。」
ガッシュの肩を軽く叩く清麿。
「ウヌ!任せるのだ!」
「清麿ー、ガッシュちゃーん、お昼よー!!」
階下から、清麿の母、華の声が聞こえてきた。
「なに、もうそんな時間か?」
清麿は部屋の時計に視線を向けた。
ガッシュと話を始めて、捜し物をしているうちに、時計の針は既に昼を回っていた。
「清麿ー、母上殿のごはんを食べに行くのだー。」
清麿の腕を引っ張り、訴えるガッシュ。
「ああ、わかったよ。行くぞ、ガッシュ!」
「ウヌ!!」
ガッシュを促し、1階へ下りる。
(本当は午前中に、英語の課題を片付けるはずだったんだがなぁ・・・。)
髪をかき乱し、ガッシュに気付かれないように、溜息をつく清麿。
「え〜にっき〜えにっき〜うれ〜しいのだ〜。」
しかし、目の前で嬉しそうに歌うガッシュを見ていると、
(・・・ま、良いか・・・。)
ほんの少し苦笑いし、先を行くガッシュに付いていった。
真っ白いノートが、ガッシュの思い出で埋め尽くされるのを想像し、
清麿は柔らかい笑みを零した。
END