Mother
「・・・私にも、あんな母親がいるのかのう・・・?」
無意識のうちに零れる言葉。あふれる涙。
ガッシュは人間界に来て初めて、自分の記憶から消えてしまった『母親』に思いを馳せた。
夕暮れの公園で。
杏杏とヒロミ。
母親と、近い将来息子の嫁となる女性が出会った。
ガッシュが遊びに出かけた途中。
公園で、何故かガッシュに意地悪するナオミちゃんに追いかけ回された時、
清麿の母、高嶺華につくってもらった弁当を失ってしまった。
打ちひしがれていたガッシュの前に杏杏が現れ、お弁当を分けてもらった。
そのお礼にと、ガッシュは杏杏の人捜し−息子の嫁探し−を手伝ったのだ。
魔界にいた頃の記憶が無いガッシュには、清麿の母・華が母親代わりとなっている。
だから、家族事を思い出せなくとも、寂しさを感じなかったが。
ひと目息子の嫁に会い、息子を頼むと一言伝えたいがために、
田舎から一人モチノキ町にやって来た杏杏。
その『母の想い』の強さを目の当たりにし、ほろ苦い感情がガッシュの心に湧き上がった。
(母親・・・。私も、ひと目母親に、会いたいのう・・・。)
抱き合う母と将来の娘、杏杏とヒロミに背を向け、ガッシュがそっと公園を離れようとした時。
「ワラシ。」
突然、杏杏に呼び止められた。
慌てて、頬を伝う涙をごしごしと腕で拭い、ガッシュはわざとゆっくり振り向いた。
「何だ?杏杏?」
ガッシュは泣いていたことを杏杏に知られたくなくて、精一杯の笑顔を見せる。
もし泣いていることが杏杏にばれたら、きっとまた「弱いワラシ」と言われてしまうだろう。
夕日の眩しさにガッシュは一瞬目を細めたが、杏杏とヒロミが揃ってこちらを向いているので、
ぱちくりと目を見開いた。
「ありがとな。ワラシ。」
「ありがとう・・・坊や。」
母親特有の温かい笑顔を見せる杏杏と、涙を拭って柔らかく微笑むヒロミ。
夕日に映える笑顔の2人に礼を言われ、ガッシュは照れくさそうに笑顔を返した。
「何を言うか、お安いご用なのだ!」
そっと拳を握り、胸に当てて見せた。
「私は、そろそろ帰るのだ。杏杏、ヒロミ、気をつけて帰るのだぞ。」
2人に向かって勢いよく手を振るガッシュ。
「ワラシもな。」
「ふふ、坊やもね。」
ガッシュに合わせるように、手を振り返す杏杏とヒロミ。
「ウヌ!」
元気よく頷き、2人を残してガッシュは公園を後にした。
(今日は・・・、ちょっとだけ、母上殿に甘えさせてもらっても良いかのう・・・?)
魔界の王を目指すガッシュも、5歳の子供。
ほんの少し、母親の温かい愛情に包まれてみたくなったようだ。
END