子供の領域
「皆さん、お疲れさまでした。」
プレアデス城の劇場支配人、ナディールの一言で皆歓喜の声をあげる。
劇団「炎の運び手」(仮)第5回公演「マッチ売りの少女」が、無事に幕を下ろした。
「ふぅ、やっと終わったよ。」
今回の主役、かわいそうなマッチ売りの少女を演じたのは、
プレアデス城のレストランで自慢の腕をふるう名コック、メイミであった。
「どうも主役って、ガラじゃないんだよね。」
こういうのは苦手だなぁ、と溜め息をつく。
「そんなことはございませんでしたよ。とても立派でした。敬服いたしました。」
そう答えたのは、若干14歳にして見事に幻影おばあさん役を演じきったサナエ・Y。
「なんか、お腹空いちゃったね。」
苦笑いするトーマス。今回はナレーションを担当した。
「じゃあさ、レストラン来る?公演前に新作ケーキを作っておいたんだ。」
「えっ本当?もちろん行くよ。新作ケーキかぁ、楽しみだなぁ。」
甘い物好きなトーマスの頭の中は、既に新作ケーキで一杯だ。
「俺も行く!トーマスさん、一緒に行って良いよね?」
トーマスとメイミの会話に混ざるヒューゴ。
「もちろん。それじゃぁ、打ち上げって訳じゃないけど、
みんなでケーキ食べに行こうか?」
「賛成ー!」
トーマスの提案にみんな賛同する。
本当はトーマスさんと2人きりが良かったんだけどな、と言いかけて
その言葉を飲み込むヒューゴ。トーマスの提案を台無しにするような
発言は控えることにした。
「ケーキは良いとして、何飲もうかな?師匠が、『牛乳は瞬き魔法に
絶大な効果があるから毎日飲むように』って言っていたから、牛乳にしようかなぁ。」
そう呟くロディに、『それはまた嘘なんじゃ・・・』と他のみんなは言いかけたが、
牛乳は身体に良いことを知っているため、あえて何も言わないことにした。
5人が思い思いにレストランへ向かうと、そこには先客がいた。
幸せそうにソーダを飲んでいるアイラであった。
「どしたの?みんな揃って?」
5人に気付いたアイラが声をかける。
「劇の打ち上げでね、みんなでケーキでも食べようかって話になって。」
ロディが笑顔で答える。
「そっか。みんな劇だったんだ?お疲れさま。で、どうだったの?」
「な、何とかブーイングはもらわずに済んだよ。」
冷や汗をかきながら答えるトーマス。
ナレーションに慣れていないトーマスは、劇の冒頭でいきなり台詞を
とちってしまったことを未だに気にしているらしい。
「トーマスさん頑張ってたからね。ナレーション、良かったよ。」
すかさずトーマスをフォローするヒューゴ。
うん、ありがとう、と照れながら答えるトーマスだったが、
依然冷や汗は治まっていない。
「じゃあ、みんな、何にする?」
いつの間にか職務復帰したメイミがみんなに尋ねる。
はいはいー!と手を挙げるロディ。修行の一環でもある舞台での務めを果たし、
ご機嫌な様子。
「新作ケーキ!・・・と、あとは、牛乳!」
「牛乳も良いけどさ・・・。みんな、ソーダ飲んでみなよ。おいしいよ。」
待ってました!とばかりに身を乗り出すアイラ。
「そーだ、って?どのような飲み物なのですか?」
ソーダを飲んだ事がないらしいサナエがアイラに尋ねる。
「ソーダってね、とっても甘くておいしいんだよ。きっとサナエも気に入るよ!」
「アイラ、お前ってホントソーダ好きだよな・・・。」
呆れるヒューゴ。聞いた話では、レストランに来る人に片っ端から
ソーダを勧めているらしい。
「むー。だっておいしいんだよ。そう言うヒューゴは、飲んだこと、あるわけ?」
じろり、とアイラが睨む。ソーダの事となると目の色が変わるようだ。
こうなると、なるべくアイラには逆らわない方が良い、
そう考えたヒューゴは思い切り首を縦に振ってみせた。
「でしょー!だから、ソーダ6つ!ヒューゴのおごりね!!」
「な、何ぃ!?そりゃないよ、アイラ・・・。」
ちゃっかり、自分の分を加えてオーダーするアイラに対し、
情けない声をあげるヒューゴ。してやられた、という感じで頭を抱える。
「まぁまぁヒューゴ君、僕も半分出すから、そんなに落ち込まないで・・・。」
今度はトーマスがヒューゴのフォローに回る。
「本当!?トーマスさんって優しいから大好きっ!」
感極まってか、どさくさに紛れてか、トーマスに思いきり抱きついた。
その時、
べしっ!
「痛っ!!」
叩かれた痛みと怒りで震えながらヒューゴが振り返ると、
銀色の甲冑に身を包んだ騎士が冷ややかな表情で立っていた。
「済まない、手が滑った。」
謝罪の言葉は、しかし自分は全く悪くないと主張しているようにも聞こえる。
その背後には、相棒の大人げない行為に首をすくめる金髪の騎士がいる。
「なっ・・・何するんですかパーシヴァルさん!?」
当然ながら抗議するヒューゴであったが、当のパーシヴァルは
「悪かった。」と一言。やはり、全く謝意はこもっていない。
「お疲れさまでした。ブラス城の様子はどうでしたか?」
この険悪な雰囲気を全く読めていないらしいトーマスが、騎士2人に声をかける。
「ただ今戻りました、トーマス殿。トラブルを起こした、評議会お抱え騎士の処遇について
ようやく話がまとまりましたので、後はサロメ殿に任せる事にいたしました。」
先程までの冷淡な表情とはうって変わり、優しい表情を見せるパーシヴァル。
ヒューゴの抗議は続くが、パーシヴァルは全く聞いてはいない。
そんな中、ふとボルスが、
「今日はどうしたんだ?子供達5人でお茶会か?」
と素朴な疑問を投げかけた。
しかし・・・
「「「「「子供じゃありません!!!」」」」」
5人の猛反撃を受けた。
「あ、いや、それは・・・済まない。」
サラウンドで抗議の声をあげられては、ボルスはひたすら謝るしかない。
(子供じゃない、ねぇ・・・。)
5人に攻められて小さくなっているボルスに対し
苦笑してみせるパーシヴァルであったが、先程の自分の子供じみた言動については
考えないでおく事にした。
「はい!秋の新作、洋梨のタルトだよ。・・・って、どしたの?みんな??」
レストランを包む不穏な空気に、首を傾げるしかないメイミであった。
END