恋セヨ乙女





「最近、クリス様の様子がおかしいんです・・・。」
全ては、ゼクセン騎士団従者の少年ルイスの一言から始まった。

プレアデス城の大会議室で、クリスを除くゼクセン5騎士&ルイスが、
騎士団の訓練について話し合っていた時のこと。

「な、何だって!?クリス様の身に、一体何が起こったと言うんだ!?」
クリスの名を聞いて真っ先に反応するのは、烈火の騎士ボルス。
猛然とルイスに突っかかる。
「い、いえ、執務中はいつもとお変わりはないんですが・・・。
時折溜め息をつかれたり、一瞬嬉しそうな表情をされたかと思ったら、
また溜め息をつく・・・この繰り返しなんです。
何か悩み事でもあるのかと思い尋ねてみたのですが、
『何でもない。』とおっしゃるだけで・・・。」
肩を落とすルイス。常にクリスの側に仕えている彼は、
心底クリスを案じているようだ。
「それは・・・確かに心配ですね。お一人で、何か抱え込んでいるのでしょうか・・・?」
騎士団の参謀役サロメもまた、真剣にクリスの事を心配している。
「我らが、何かクリス様の力になれれば良いのだが・・・。」
腕組みをして考え込むのは質実剛健、実直な騎士であるレオ。
「・・・しかし、今のルイスの話では、クリス様はまるで恋煩いにでも・・・。」
壁に寄り掛かり顎に手を当てて、パーシヴァルが呟いたとたん、


「な・・・何だって〜!!!?」


ボルス、レオはもとより、それまで沈黙を保っていたロランまでもが、身を乗り出して
驚愕の表情を露わにした。
「と、という事は!?ク、クリス様は誰かに、こ、恋をしていると!?
お、俺じゃないのか・・・・・くっ!」
「・・・・・・・・・そんな訳ないでしょう・・・。」
誰の目にも明らかに、「クリス様に恋しています」オーラを撒き散らしているボルスは
すっかり落ち込んでしまったが、そこへルイスのとどめの一言。
ボルスは拳を壁に打ち付け、やり場のない怒りと格闘中のようだ。
「いや、まぁ、まだ恋煩いと決まった訳じゃない。そう落ち込むな。」
パーシヴァルの慰めの言葉も、ボルスの頭上を虚しく通過していく。
ボルスには全く聞こえていないらしい。
一方、
「ク、クリス様・・・ま、まさか、そんな・・・。」
こちらもまた、相当なダメージを受けてしまったらしいサロメ。
「み、皆さん落ち着いてください。確かに、まだそうと決まった訳じゃありませんから。」
このメンバーの中で一番年下であるルイスが、実は一番落ち着いていた。
彼自身、確かにクリスは憧れの人ではあるが、クリスが幸せならばそれで良い、とも
思っているのである。
しかし、ボルスは落胆しきっているし、サロメも呆然としている。
レオは平静を保っているようだが、組んでいる腕がわなわなと震えている。
ロランに至っては、驚愕の表情からすっかり固まってしまっている。
「・・・さて、どうしたものか・・・。」
4騎士に壊滅的ダメージを与えてしまったパーシヴァルは、さすがに考え込んでしまった。
確かに、自分だってクリスの事を敬愛してはいるが、
さすがにここまでショックを受ける事はないだろう。
「どうしますか、パーシヴァル様?こうなった以上は真相を確かめないと、
騎士団はおしまいですよ?」
さらりと怖い事を言ってみせるルイス。
「ふむ・・・確かにそれは一理ある。あの探偵の少年にでも頼んで、調べてもらうか?」
「え、いや・・・キッド君はやめた方が良いと思いますよ?」
「?」
「キッド君に依頼したが最後、余計な事件を巻き起こす・・・って話ですからね。」
「しかし、俺達が調べ回ってもたかが知れているだろう。こういう時に役立つのが
探偵というものではないのか?」
「えぇ、まぁそうなんですけどね・・・。」
ルイスとパーシヴァルの会話に、徐々に混ざってくる騎士達。
ただし、ボルスだけは依然として壁と闘っていた。
「とりあえず、キッド君とアーサー君に調査を依頼して、あとは我々もできる限り
聞き込み調査をいたしましょう。
ですが、くれぐれも、クリス様に悟られぬように。いいですね?」
すっかり立ち直ったらしいサロメが各騎士に指示を出す。
「では、俺は外の連中に話を聴こう。セシルが何か情報を掴んでいるかもしれないしな。」
レオが真っ先に名乗りをあげる。
「私は牧場近辺の者と話をしてみる。」
表情からは読みとれないが、結構乗り気らしいロラン。
「僕も、メルヴィル達やメイミさん達のところへ行ってきます。」
まるで探偵ごっこを楽しむかのようなルイス。心なしかウキウキしている。
「それでは、俺は城主殿のところへ・・・」
「ちょっと待った!」
パーシヴァルが大会議室を出ようと後ろを振り返ったその時、
それまで会話に混ざろうとしなかった(混ざれなかった)ボルスが、いきなり声をあげる。
「お前は、単に城主殿に会いたいだけではないのか?」
淡い想いを木っ端微塵に打ち砕かれたボルスの、せめてもの嫌味、らしい。
しかし、当のパーシヴァルは、
「城主殿は交友が多いので、きっと有力な手がかりをお持ちに違いない。そう言う訳だ。」
不敵に微笑み、あっさり反撃する。颯爽と大会議室を出て行ってしまった。
「・・・ちくしょおぉぉお!!!」
再び、壁と格闘し始めるボルス。
「ま、まあまあボルス殿、暴れるのは真相が解明してからでも遅くはないのでは?」
ボルスを止めに入るサロメ。
「・・・全く、大人げないですね・・・。」
ルイスが肩をすくめ、溜め息をつく。

一方、5騎士&ルイスの間でそのような会話(?)が交わされていた頃、
クリスは酒場で劇の打合せをしていた。
劇団「炎の運び手」(仮)第2回公演「ロミオとジュリエット」の
台本読み合わせを兼ねている。
「・・・ふぅ、台詞が多くて難しいな。」
溜め息をつくクリスだが、その心は躍っていた。
(この芝居は何とか成功させて、軍曹どのに安心してもらいたい。
も、もしかしたら、舞台上で手を繋ぐ・・・なんて事もあるかも・・・!!)
舞台に上がるのを苦手とするクリスは、この劇でジョー軍曹との共演を果たす事になった。
難しい芝居ではあるが、クリスは意欲に燃えていた。
「まぁ、何もかもきっちり台本どおりにやる事もないさ。落ち着いていこうぜ、クリス。」
「ぐ、軍曹どの・・・・・。」
劇の難しさに悩むクリスに、励ましの声をかけるジョー軍曹。頬を染め、張り切るクリス。
以下、この繰り返しである。
今のクリスには、他の共演者やナディールは全く見えていないようだ。


さて、5騎士&ルイスは、この時のクリスの表情を見たら、何と言うだろうか・・・。



END


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