MAN'S SENTIMENT
深く息を吸い込み、ゆっくり、時間をかけてはき出す。
力が入りすぎないように、できる限り静かに扉をノックする。
「・・・はい?」
良かった、部屋にいた。
自然と、顔がほころぶ。
「トーマスさん、ちょっとお邪魔して、いい?」
ここでダメって言うようなトーマスさんじゃないって
分かっているけど、少し不安はよぎる。
甘えた声を出す自分に、ちょっと苦笑いする。
すると、目の前の扉が開いて・・・
「いらっしゃい、ヒューゴ君。散らかっているけど、どうぞ。」
いつもの優しい笑顔で、俺を迎えてくれる。
心臓の音が急に速くなったけど、トーマスさんには聞こえてないよね、きっと。
「お、お邪魔します。」
散らかってるって言ってたけど、机にたくさんの本が積まれている位で、
部屋の中はきちんと整頓されている。さすがはトーマスさん。
「あ、仕事中・・・だった?」
2・3冊開いたままの本に気付き、ちょっと心配になって訊いてみる。
「ちょうど一休みしようかなって思っていたところだから、大丈夫だよ。」
トーマスさんのその言葉が嬉しくて。
温かい笑顔が嬉しくて。
・・・・・少し、切ない。
「お茶入れようか。ヒューゴ君も飲む?」
くるりと背を向けようとするトーマスさんに向かって、
そっと手を伸ばし、自分の腕をトーマスさんの腕に絡める。
「・・・?どうしたの、ヒュ−ゴ君?」
「ありがとう・・・でも、今はいい。」
今なら、俺の邪魔をする人はいない。
俺がトーマスさんに抱きついたり手を握ったりする度に、
問答無用で頭を叩いてくる黒髪の騎士も、
にっこり笑顔で恐ろしい事を言ってくる神官将も、
怖い顔して俺を追い払おうとする傭兵のおねーさんも、
遠征や外出で今日はこの城にいない。
俺とトーマスさんの間を邪魔する不届き者は、今は誰もいないから。
絡めた腕に、少し力を込める。
「・・・・・ヒューゴ君・・・?」
少し戸惑っているみたい。いつもより小さな声で、尋ねられる。
「・・・トーマスさん、あったかい・・・。」
今は、もう少しだけ、このままでいさせて欲しい。
トーマスさんは、誰に対しても優しい。
みんなに公平で、平等に、優しい。
それは、俺に対しても同じで。
・・・ちょっと悲しい。
でも、あの人に対してだけは違うって、気付いたのは何時だったろう?
あの人を見つめるトーマスさんの表情は、とても幸せそうで。
他の誰にも見せた事のないような、とても柔らかい笑顔で。
俺には、一度だってその笑顔を見せてくれた事はない。
・・・・・・なんか悔しい。
俺だって、ずっとトーマスさんの事が好きなのに。
ゼクセンの鉄頭達から俺達を庇ってくれた、あの日から。
前に一度、思い切ってトーマスさんに告白した事がある。
その時は、嬉しそうに笑って「うん、僕も好きだよ。」と
言ってくれたけど・・・。
それはあくまでも『友達』としての答えであって。
俺の望んでいた答えは、帰ってこなかった。
でも・・・・・。
今なら、あの人はいない。
・・・・・奪っちゃおうかな。
あの人から、トーマスさんを。
「・・・ヒューゴ君?一体どうしたの・・・?」
今よりもっと、俺の方を見ていて欲しいから。
俺の事、もっといっぱい思って欲しいから。
あの人に、頭を叩かれて邪魔される前に、
トーマスさんの頬にそっと手を伸ばして・・・。
「トーマスさん、・・・あのね、俺、・・・。」
トーマスさんは、今度は何て言うかな・・・?
END