酒は飲んでも飲まれるな。
「これが、今回の収入です。お納め下さい。」
「ありがとうございます。」
午後の見回りのため劇場に立ち寄ったトーマスは、
ナディールに呼び止められ、劇の収入が入った袋を渡された。
袋の中には4200ポッチ入っていた。
「結構多いかも・・・。壁の修理代に回そうかな・・・。」
トーマスは嬉しくなり、お金を袋に戻した。
ナディールに挨拶し、劇場から離れようとしたトーマスに、
酒場で一人酒を飲んでいたジョーカーが声をかけた。
「こんにちは、ジョーカーさん。・・・って、まだ明るいうちからお酒飲んでるんですか?」
若干16歳のトーマスは言うまでもなく未成年で、
当然のことながらアルコールの類はまともに飲んだことがない。
トーマス情報では、お酒は「夜に飲む大人の飲み物。苦そう。」らしい。
「何時飲もうと、酒は酒じゃよ。味に変わりはない。」
ジョーカーは静かに笑った。
「そ・・・う、いうものなんですか?」
トーマスは首を傾げる。
「そういうものじゃよ。ほれ、そこへ座りなさい。」
勧められるまま、トーマスはジョーカーの隣にある椅子に腰掛けた。
「お前さんも飲むか?」
そう言ってジョーカーは、酒瓶をトーマスに差し出した。
「あ、いえ、僕は・・・。」
トーマスは両手を振って、お酒は飲めないんです・・・と言いかけたところへ、
「遠慮することはないのよ、坊や。このおじいさんがせっかく勧めてくれてるんだし。」
「うわぁっ!?」
何時からそこにいたのか、トーマスの背後にエレーンが立っていた。
妖艶な微笑みと大胆な服装は相変わらずだ。
「じじぃ扱いするな。」
グラスを傾けつつ、ジョーカーがエレーンを睨みつける。
「良いじゃない、別に。それよりも、坊や。あたしがあんた位の年の頃は、
そのグラスの6杯や7杯は軽〜くいけたもんよ。」
自慢なのかどうか分からないが、エレーンは得意げにトーマスにウィンクする。
そして2人に向かい合う位置に腰を下ろした。
「えぇ!?・・・って、エレーンさん、あの、坊やって呼ぶの、やめていただけませんか?」
「まぁまぁ、カタいこと言うんじゃないよ。せっかくのお酒なんだから、楽しく飲まなくちゃね。」
そう言うと、エレーンはアンヌにボトル2本とグラス2つを注文した。
すっかり酒を飲むことにされてしまったトーマスは、おろおろしている。
「まぁ、たまにはいいじゃろ。カレリア程じゃないが、ここの酒も結構いけるぞ。」
ジョーカーもそんなことを言う。
「そ、そんな・・・。」
周囲をきょろきょろと見渡すトーマス。しかし、こんな時に限ってネイ達は酒場にいない。
ナディールも、次の劇について思案中なのか、舞台袖に引っ込んでいる。
「往生際が悪いよ、坊や。」
アンヌの持ってきたグラスにウィスキーをなみなみと注ぎ、トーマスに手渡すエレーン。
「で、でも。」
「あ〜、もぅ、良いから、さっさと飲む!」
エレーンは、無理矢理トーマスにグラスを持たせ、ぐいっと口へ運ばせた。
「こ、こらエレーン・・・?」
さすがに無理強いはまずいと思ったジョーカーがエレーンを止めようとしたが、時既に遅し。
「んぐ・・・・・・!?げほごほっ!!」
無理にウィスキーを流し込まれたトーマス。
変なところに入ったからか、激しく咳き込んだ。
口に入りきらなかったウイスキーがトーマスのジャケットを濡らしていく。
「ほぉ〜ら、結構イケるでしょ?」
「だ、大丈夫かの・・・?」
にこにこと嬉しそうなエレーン。心配そうにトーマスの顔をのぞき込むジョーカー。
「・・・・・・・・・・・・・」
トーマスは返事をしないどころか、ぴくりとも動かない。
「ちょ、ちょっとぉ、何とか言いなさいよ〜。」
エレーンがトーマスの肩を揺する。
すると・・・
ぱた。
テーブルに突っ伏してしまったトーマス。
「あ、あらぁ・・・?」
「・・・・・・・・・。」
顔を見合わせるエレーンとジョーカー。
「おぅ、エレーン、いるか?」
粗っぽく扉を開けて、デュークが酒場にやってきた。
「失礼。城主殿を見かけませんでしたか?」
続いて、私服姿のパーシヴァルが入ってくる。
そこには、しまった!という表情のエレーンと、やれやれと肩をすくめるジョーカーと・・・・・・。
「おっ、おい何だ!?何があった?何でトーマスがこんなとこで寝てんだ?」
状況が全く飲み込めていないデューク。
そして・・・
「一体、これは、どういうことですか?」
険しい表情と氷のように冷たい口調で、詰問するパーシヴァル。
明らかに怒っている。
「えーと、ご、ごめんなさいねぇ。」
さすがに悪いと思ったのか、それともパーシヴァルが怖いからか、謝り始めたエレーン。
「すまん、本当に。」
同じく、謝罪するジョーカー。トーマスに酒を勧めた手前、罪悪感があるのだろう。
「・・・全く。酒盛りは、相手を選んでいただきたいものですね。」
一向に起きる気配のないトーマスを抱えて、酒場を出ていくパーシヴァル。
アンヌがプラスチックボトルに水を入れ、後を追った。
「・・・星が・・・見えるー・・・。」
「とりあえず、水を飲んでください。」
ベッドに横たわっているトーマスを静かに起こし、
アンヌが持ってきた水をゆっくり飲ませる。
「あ・・頭・・・痛い・・・。」
「しばらく、横になると良いですよ。」
毛布を掛け、そっと頭を撫でる。
程なく、トーマスは眠りについた。
トーマスを午後のお茶に誘おうと思っていたパーシヴァルは、結局
酔いつぶれたトーマスの看病をすることになった。
苦しそうなトーマスを見るのは忍びないが、2人きりでいられることを密かに喜んでもいた。
邪魔者が入ってこないよう、しっかり扉に鍵をかけている。
「早く元気になって下さいね。」
毛布からのぞくトーマスの左手に、そっと自分の手を添えて、
パーシヴァルは穏やかな声で呟いた。
その頃、酒場では・・・
「何でトーマスに酒なんか飲ませたんだ?」
「だぁって、面白そうだったから・・・。」
「だからって、無理矢理飲ませることはねぇだろう!?」
「んふ、もしかして、妬いてるの、デューク?」
「ば・・・・・ば、馬鹿言ってんじゃねぇっ!!!」
デュークとエレーンの痴話喧嘩(?)が繰り広げられていた。
END