腕に覚えあり!
北から吹きつける風が徐々に冷たさを増していく季節。
プレアデス城が新生「炎の運び手」の本拠地となって、初めての冬を迎えようとしている。
「違う違う!もっと腕の振りはこうだ!!」
「ひぃ〜っ、も、もう勘弁してくださいよぉ〜!!」
叫び声とともに、金属のぶつかりあう音が響く。
晴れ渡った空の下で、ジョー軍曹がレット及びワイルダーに稽古をつけている。
広場にはその様子を眺めるギャラリーが数名。
「なんだなんだ、もうギブアップか?根性無いぞお前ら。」
「軍曹〜、もう今日はやめましょうよ〜!」
「・・・おなか、すいた〜。」
そんな彼らの様子を、城のバルコニーから静かに見つめる人物。
ゼクセン騎士団長である銀の乙女、クリスであった。
(・・・軍曹どの。今日も凛々しく、柔らかく温かそうな羽毛・・・じゃない、
ダックハルバードの腕前は素晴らしい。
そのふかふかな羽毛を・・・じゃなくて、えーと、えーと、是非一度お手合わせを・・・。)
誰に語るわけでもないのに、彼女は自分の感情に素直になれないでいる。
敵対していた頃には感じなかった気持ち。
同じ目的のために手を取り合う仲間として、改めて正面から向き合った時に
初めて気が付いた想い。
(わ、私は・・・私は一体・・・・・。)
自分の感情に戸惑うクリス。しかし、彼女の視線は自然とジョー軍曹の姿を探してしまう。
(そういえば、執務に追われて、まだ一度も軍曹どのと遠征へ出かけたことがない・・・。)
自分とジョー軍曹を同じパーティーに組んでくれない炎の英雄に、逆恨みしてみる。
(・・・・・何を考えているんだ、私は・・・。)
子供っぽい感情に軽く首を振り、ため息を漏らす。
「おぉーい!騎士団長!!」
「・・・・え?はい?」
頭の中でぐるぐる考えを巡らせていたクリスは、ジョー軍曹に呼ばれていることに
気付くのが遅れてしまった。
「降りてこいよ!ちょっと、こいつらの訓練を手伝ってくれないか?」
「え・・・・・。」
「「ひいっ!!」」
軍曹の申し出に、我が耳を疑うクリス。
疲労と恐怖で引きつった声をあげたのは、もちろんレットとワイルダー。
「よ、良いのか?私で?!」
「あぁ。忙しくなかったら、頼む。」
「わ・・・わかった。今そちらへ行く。」
「「そんな〜!!」」
再び、ダック戦士2人の悲鳴が響く。
一足飛びで広場へ駆けていくクリス。
単に訓練を手伝うだけのこと。
それなのに、何故こうも心が躍るのか。
「すまんね。無理言って。さすがに俺一人じゃぁ大変でね。」
肩をすくめながら、クリスに笑いかける軍曹。
「そ、そんなことは、ない。」
(・・・何故私は、こういう時に気の利いた言葉一つ言えないのか・・・。)
無愛想とも取られかねない自分の口調に、頭を抱えたい衝動に駆られる。
「じゃ、遠慮はいらんから、徹底的にたたき直してやってくれ。」
「「ぐ、軍曹〜!!!」」
「わ、・・・わかった。」
「「クリスさ〜ん!!!」」
レット&ワイルダーは、すっかり怯えている。
普段は一人の乙女であるクリスだが、さすがは騎士団の頂点に立つ者。
剣を構えた瞬間から、鋭く隙のない一人の戦士となる。
「じゃあ、二人とも。遠慮はしないから覚悟してね。」
普通の女の子口調なのは、以前レット&ワイルダーと旅を共にしたことがあるからか。
しかし、その表情に不敵な微笑みをたたえている。
「・・・俺達、もうダメかも・・・。」
情けない声のワイルダーと、
「せめて夕ご飯食べてから・・・。」
ひたすら空腹を訴えるレット。
太陽がそろそろ西の空へ沈み行く頃。
広場に大の字になって横たわっている、ダック戦士二名。
城の壁に寄り掛かって腰を下ろす軍曹。クリスも後に続く。
「ふぅ・・・おかげで助かったよ。少しはこいつらも、戦士として使えるように
なったんじゃないかな。本当に感謝するよ、騎士団長。」
流れる汗をタオルで拭いつつ、クリスに笑いかけるジョー軍曹。
「そ、そんな・・・私は、ただ自分にできることを・・・。」
頬を染めうろたえるクリス。
「やはり腕の立つ者から教わるのが、上達の近道だな。
さて、あんたに何かお礼しなきゃな・・・。」
「れ、礼だなんて、私は・・・。」
そんなつもりでは・・・と言いかけたクリスの目の前に、プラスチック製のあひるが差し出された。
「こ・・・これはっ!!」
瞬時にして目の色が輝き出すクリス。
「あぁ、こんな物もらっても嬉しくないか。子供じゃないんだしな・・・。」
差し出しておいて、今更ながらそんなことに気付く。
自分の、ちょっと間の抜けた行動に肩をすくめる軍曹だったが、
食い入るように見つめるクリスの瞳に訊ねてみる。
「・・・もしかして、こういうの、好きか?」
「・・・え、えっと・・・あの・・・・・・。」
頭の中では否定しようと思っていても、上手く言葉が出てこない。
少し困ったように微笑むしかないクリスだった。
「・・・そっか。じゃぁ、こいつ、もらってくれるかい?」
「え・・・で、でも、良いのか?」
「あぁ。本当は城の子供達にでもあげようかと思ってたんだが。
まあ、礼になってない気もするがな・・・。」
そう言って、ぽりぽりと頬をかく軍曹。
「そ・・・そんなことはない!・・・た、大切にする・・・!」
表情は真剣そのもののクリス。
「・・・そっか。じゃ、大事にしてくれよ、クリス。」
軍曹の手からあひるさんが手渡される。
かすかに触れた羽毛は、想像以上に温かい。
「・・・約束する。」
あひるさんを受け取ったクリスの表情は、幸せそうだった。
(今日という日に、感謝を・・・。)
こっそりと、神様に感謝を捧げる。
「・・ふふ、軍曹どのに、似ているな・・・。」
「そ、そうかぁ?」
「ああ。この目元とか、くちばしとか、そっくりだ。」
「・・・そうかなぁ?」
夕陽を浴びて、楽しそうに語り合うクリスとジョー軍曹。
一方、レット&ワイルダーは、依然として大の字になって寝そべっている。
「軍曹の・・・スパルタ〜・・・。」
「・・クリスさん・・・もっと手加減して・・・。」
2人の愚痴は続く・・・。
END