ようこそ、劇場へ!3





「俺は悪くないぞ!!」

どう考えても少年とは思えぬ、低く太い声が響いたかと思うと、
観客席からはブーイングの嵐が巻き起こった。


      その3  キャスティングはギャンブル!?


「・・・・・やはり、ダメでしたか・・・・・。」
プレアデス城劇場支配人である仮面の男ナディールは、観客の予想以上の反応に
がっくりと肩を落とした。
「・・・確かに、これまで我が劇団『炎の運び手』の公演は数々の成功を収めてきました。
そろそろ、奇をてらった公演を開いても良いのではないか・・という
皆さんの意見はわかるのですが・・・。」
受けを狙ったはずのミスマッチな配役は、逆に観客の怒りを買ったらしい。
「・・・全く、誰でしょうね、この配役で行こうとおっしゃったのは・・・・・。」
・・・最終的に決定を下したのは自分なのに、その事を棚に上げて、
ナディールは愚痴をこぼした。
そして、持っていた羊皮紙を改めて見直す。


『演目:オオカミ少年

配役
羊飼いの少年 ジェファーソン
ナレーション ランディス
村人A    トウタ
オオカミ   ムト
ヒツジ    パーシヴァル』


「・・・さすがに、この配役はやり過ぎでしたね・・・。」
ナディールの当初考えていた配役とは、180度違うこのメンバー。

肺中の空気を全て吐き出したかのような、深い溜め息を一つ。
「何故、こんな事になったのでしょう・・・。」

ちなみに、最初にナディールが考えていたキャスティングは、


『羊飼いの少年 アーサー
 ナレーション マイク
 村人A    ネイ
 オオカミ   ガウ
 ヒツジ    ムト』

であった。
それが何故、こんな事になったのか・・・・・?


今から、約1週間前に遡る・・・・・。


「今回の公演は、このメンバーで行きたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

劇のキャスティング発表の時間になると、いつの頃からか劇場のある酒場には、
ナディールに予め呼ばれていた者の他に、もしかして自分に声がかかるかも・・・と
期待してやって来る者、ただの野次馬根性で集まる者などが集まるようになった。
これまで7度の公演全てが、多少のトラブルはあれど大成功を収めてきただけに、
今回の配役も問題なく決定される・・・はずだった。
しかし・・・。



「「「異議あり!!!」」」

複数の声が同時にあがった。

声の主は、ヒューゴ、キッド・メルの3名だった。

「皆さん、どうしましたか?・・・このキャスティングに、何かご不満でも?」
年下の子供相手でも、決してその姿勢を崩すことの無いナディール。
仮面の内側に隠れた素顔は果たして・・・・・?

「いや、問題は無いんだけど、かえって面白くはないよね。」
目をらんらんと輝かせて、ヒューゴが身を乗り出した。
「・・・どういうことでしょうか・・・?」
「つまり、もっと大胆で意表を突いたキャスティングにしよう!っていうことさ!!」
「は・・・はぁ・・・。」
まるで事件の調査でもしているかのような、力の入ったキッドの口調に、
一瞬ナディールは後ずさりしてしまった。
「名演技も良いけど、たまには迷演技も見たいのよ。ねっ、ナディールさんお願い!」
両手を合わせた『お願い』のポーズとウィンクで、メルが可愛らしく迫ってくる。
「え、ええ、そうですね・・・。」
顔は見えないが、明らかにナディールは困惑していた。
今回のキャスティングも、ナディールは絶対的に自信があった。
これで、また今回も観客に満足してもらえる、興行収入もアップするだろう・・・と
考えていたのだ。
しかし、3人の『異議あり』の声に、ナディールの自信はぐらついた。
「で、では・・・皆さんは、今回のキャスティングをどうしろと・・・」
「「「待ってました!!!」」」
ヒューゴ・キッド・メルの3人が、顔を見合わせてにやりと・・・笑ったような気がした。
キッドがポケットから、一枚の羊皮紙を取り出して、ナディールに差し出す。

「・・・・・これは、一体・・・?」
「だーかーらー、『オオカミ少年』の配役だってば!」
羊皮紙を見つめたまま固まってしまったナディール。
一方、期待に目を輝かせるヒューゴ・キッド・メルの3名。
「今回は、絶対このメンバーで行こうよ!絶対に面白い劇になるから!!」
その自信はどこから来るのだろうか・・・。
「いや、しかしですね・・・・・」
狼狽えるナディール。こんな配役では、観客は暴動を起こすだろう・・・。
ところが・・・。
「そうですね・・・。一度くらいこのような配役があっても、良いのかもしれませんね。」
本来村人役になるはずだったネイが、くすくす笑いながら3人に同意した。
「ははは・・・楽しそうではありませんか。」
相変わらず、笑みを絶やさないマイク。
「そ・・そんな・・・。」
予想外の展開に、ナディールは頭を抱えた。
マイクはともかく、ネイはこのようなおふざけには絶対に乗らないと信じていたようだ。
「頼むよ、ナディールさん。一度で良いからさ。」
「たまには、羽目を外したって良いじゃない?」
徐々に迫るヒューゴとメル。
2人の背後では、キッドが誇らしく笑っている。
「・・・・・はぁ、・・・わかりましたよ。今回だけですからね。」
とうとう観念したのか、ナディールは溜め息とともに、
3人の脅迫に似た申し出に応じてしまった。
「「「やったぁ!!!」」」
歓喜の中でハイタッチを交わす3名。
一方、素顔は見えないが、恐らく顔を真っ青にして悩みまくっているナディール。
(こんなキャスティングで、一体どうやって観客を・・・収入を・・・。)


そして、結果は・・・・・・。


「あそこで、私が頑なに3人の意見をはねつけていれば、良かったのかもしれません・・・。」
怒りを顕わにする観衆の姿を舞台袖で見つめていたナディールは、
今日何度目かの溜め息をついた。
「次回こそは・・・・・!!舞台の神に・・・観客に、満足してもらえるような
配役を考えないといけませんね・・・。」


一方・・・。

「うふふ、観客は怒っていたけど、結構面白かったじゃない?」
酒場の後方に座っていたメルが、満足そうに微笑んだ。
「俺達のキャスティングは、間違っていなかったよな。」
ヒューゴも嬉しそうだ。
「当然さ!次の劇が『オオカミ少年』だって聞いた時から、
僕たちが3日間考え抜いたキャスティングなんだから!」
ミルクを片手に、キッドは頷いた。
「ところで、次回の公演は『帝国の愛』をまたやるんですって。」
「そうなんだ・・・・・ふぅ〜ん・・・。」
「そうとわかれば・・・・・。」
またしても、3人の目が不気味に輝いた・・・。


ナディールの苦難は続く・・・かもしれない。



End


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