お題07 タマゴ





淡いピンクのニット帽を被った少女が、にこにこと笑みを湛えながら白い物体を差し出した。

「……何だ、これ?」
「ポケモンのタマゴ。良かったら、受け取ってほしいんです。」

ずずいと胸の辺りに差し出された白い物体――タマゴを、金髪の青年はただ呆然と見つめるばかりだ。


「ポケモン図鑑を全国版にしてもらったから、
遠くに住んでる友達から色んなポケモンを送ってもらってるんです。
これは、ホウエン地方の友達からOKをもらって、育て屋さんで手に入れたタマゴなんですよ。」
一つはこの間孵したんですよ〜…という弾んだ声に、ようやくデンジは我に返った。
「で…何でそいつを俺に渡そうと思ったんだ?」
「もし、迷惑じゃなかったら…だけど。
育てて欲しいんだ、デンジさんの手で。」
「…何のタマゴか聞いても良いか?」
「それは秘密。バラしたら面白くないもの。」
「……。」
腕を組んで、デンジは再びタマゴに視線を移す。
思案に沈んだデンジを前に、それまで笑みを浮かべていたヒカリの表情が微かに曇った。
「やっぱり…こういうのって、迷惑…?」
「――そうは言っていない。」
力無い声に気付いたデンジが、ヒカリの手からタマゴを受け取る。
落とさないよう、細心の注意を払いながら。
「もらっておこう。どうせヒマだし。」
「…良かったぁ、ありがとう!」
ぱあっとヒカリの表情が輝く。
…しかし、はたと何かに気付いて、難しそうな顔をしながら腕を組んだ。
「ヒマなポケモンジムって……大丈夫なんですか?」
「仕方がないだろう。最近はヨスガあたりで脱落者が多いと聞くからな。
再挑戦者も滅多に来なくなったし。」
「…んん〜。メリッサさん、強いですからね…。
そういえば、私も苦労したなぁ…。」
ヨスガシティのジムリーダーでありながらコンテストも滅法強い、
独創的なヘアースタイルが印象的な女性。
彼女――メリッサの姿が頭に浮かび、ヒカリは柔らかく微笑んだ。
「ジムの改造もいい加減飽きたところだし、久々にポケモン育成も悪くないだろう。」
「そうですよ。ジムの改造なんかより絶…っ対に良いですよっ!!」
「……な、何でお前が怒るんだ?」
「だって…。」
見上げる瞳には非難の色が強く表れている。
タマゴを抱えたまま無意識に後退るデンジと、むくれたままずずいと身を乗り出すヒカリ。
「前にデンジさんが大停電起こした時、
私、ナギサシティに入れなくてものすごく困ったんだから…。
町の人だって色々言ってたし…。ああいうのは、本当に困ります!!」
「…………悪かった…。」
その件を言われると弱い。
長身の男が背を丸くして項垂れた。
しばらくは無言で睨んでいたヒカリだったが、短く溜息をついてほんの少し苦い笑みを浮かべた。
「……いいですよ、もう。
そのかわり、停電騒ぎはもう止めてくださいね?」
「……善処する…。」
ぼそりと呟いた声の主を、ヒカリは晴れやかな表情で見上げた。


「そうそう、タマゴのことなんですけど…。」
「…?」
「できれば、この子が進化するまで育ててあげて欲しいんです。」
「……何でだ?」
愛おしそうにタマゴを撫でながら、ヒカリははにかんだ。

「その子、進化したらちょっとだけ似ているんですよ。デンジさんに。」



END


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