仁義無き戦い!?





眼前に広がる瓦礫の山。
日の光も射さない、深い深い霧に覆われた街。
もはや都市の機能を果たしていないその土地に足を踏み入れたのは、プラチナブロンドの髪に、
藍色のヘアバンドを額に巻いた青年。
その隣には、何の変哲もない杖・・・ではなく、何と顔が有り言葉も喋る魔法の杖が。

「過去の栄光、今は影も形も無く・・・か。寂しいね。」

青年・・・ネイティオは俯いて嘆息した。
「ネイティオ殿は、ここへ来た事がおありなのですか?」
「いや、そういう訳じゃないよ。昔読んだ本に載っていたんだ。」
見上げてくる喋る杖・・・ゴリガンに、そっと首を振る。


ナバトは、かつて神聖な宗教都市として栄華を誇っていた。
聖職者を志す者は誰もがナバトを目指し、そしてバブラシュカ大陸各地へ巣立っていったと
伝えられている。
郊外では色とりどりの花が咲き誇り、教会からは日々時を告げる鐘の音が
澄んだ青空に響き渡っていたという。
ネイティオは、そのような話をゴリガンに聞かせた。


しかし花どころか、現在のナバトには人の姿さえ見られない。
むしろアンデッド系クリーチャーや幽霊でも居座っていそうな雰囲気である。


「何故、ナバトはこんな風に変わり果ててしまったんだろうね・・・?」
「さあ・・・宗教的な事は私にもわかりませんが、何かしら強大な力が働いたと見て良いでしょうな・・・。
恐らく・・・・・。」
「・・・セプター、かい?」
「そうでしょうな。」


ナバトの街の中心部にそびえ立つ神殿。
そこだけが、かつての栄華を色濃く残している。
他の建物がどれもこれも無惨に破壊され尽くしているというのに、
この神殿だけは壁や窓硝子に傷ひとつついていない。
それどころか、庭には薄紫色の花が咲き乱れている。
綺麗とも可愛いとも表現し辛い花・・・ではあるが。

・・・ということは、この神殿が全ての元凶ではないか・・・?


ぼんやりとそのような事を考えながら歩いていたネイティオは、
神殿の門前にセプターの気配を感じた。
・・・もう、嫌と言う位戦った事がある、その男の名は・・・・・。



「ネイティオ、やはり貴様も来たか!」
竜眼のゼネス・・・人々は、彼をそう呼んでいる。
なぜなら彼の左目は、人のそれとは明らかに異なるからだ。
鋭い眼差しでネイティオを睨み付けてくるゼネスは、ネイティオがこの地へ来る事がわかっていたらしい。


「やあ、ゼネス。また会ったね。」
ゼネスとは対照的に、のほほんと挨拶を返すネイティオ。
憎悪の念が凄まじいゼネスの視線を、全く意に介していない。
「・・また会ったと言うよりも、ゼネスよ・・・何故お主はこう毎回毎回ネイティオ殿の邪魔をしに来るのだ?」
うんざりした表情のゴリガン。
ネイティオとゴリガンが出会って間もなく、早々に戦いを仕掛けてきたのが、目の前のゼネスだった。
しかも、行く先々で何故か現れる・・・。
いい加減、つきまとわれている・・・と感じるのも仕方ないだろう。
「今日こそ貴様を倒し、この俺様が最強だという事を証明する!
貴様に負けた屈辱を、今日ここで、何倍にもして返してやるっ!!」
ネイティオをビシイッ!と指差し、一気にまくし立てる。
今日も気力充実・気合い十分・・・と言ったところだろう。
「わかったよ。じゃあ、今日も正々堂々頑張ろうね。」
しかし、そんなゼネスの意気込みさえもするりと受け流し、ネイティオが微笑んだ。
(くっ・・・こんな腑抜け野郎が俺様の宿命のライバルとは・・・・・!!)
気勢を削がれたゼネスはがっくりと肩を落とす。
こんなのほほんとした男に連戦連敗な自分が情け無く思えてきた・・・。


「おや・・・・・あなた方も、モルダビア様へお布施を・・・?これは良い心がけですね。」
穏やかな声音に、しかしわずかながら冷酷な響きを含んだ声の主が、
ゆったりとした仕草で神殿の扉から姿を現した。
澱んだ薄藍色の髪、錆浅黄色の肌。
不気味に輝く漆黒の法衣。
聖書らしき色褪せた分厚い書物を大事そうに抱えている。


「「モルダビア様?」」
ネイティオとゼネスの声がハモる。
「おや、・・・・・あなた方は、モルダビア様をご存じないと・・・?
何と嘆かわしい事です・・・モルダビア様、この迷える不届き者共をお許しください。」
大仰に顔を覆う神父。
「今からでも遅くはありません。心を入れ替え、モルダビア様に全てを捧げるのです。
そうすれば、あなた方にも永遠なる幸福が約束されるでしょう・・・!」
一転、恍惚とした表情で語りかけてくる。
「そんなものは要らん!己の道は、己で切り開く!!」
「悪いけど、僕も遠慮するよ。
ビステア様やセレニア様といった四柱神を信仰するならともかく、
聞いた事も無いような怪しい神様を信仰するつもりは無いからね。」
ゼネス、ネイティオ、共に即答。
みるみる、神父の表情が険しくなっていく。
法衣のポケットから、すっと何かを取り出した。
手に収まっているのは・・・複数のカード。
瞬間、それまでは微塵も感じられなかった強大な魔力が、神父から伝わってきた。
「・・・貴様もセプターかっ!?」
「なるほど・・・やっぱりそういう事だったんだ・・・。」
相手がセプターだとわかると、戦いの情念故か、ゼネスが不敵に笑って臨戦態勢に入った。
一方のネイティオは、瞳にほんのわずか悲しみの色を浮かべた。
「この街がこんな姿になったのは・・・あなたのせいだね?」
「それが何だというのです?」
神父が残忍な笑みを浮かべる。
「モルダビア様の素晴らしさを理解しない愚民共には、この程度では生ぬるいですよ。
そしてそれは・・・あなた方とて同じ。
モルダビア様の使徒であるこのベルカイルが、あなた方を改心させてあげますよ!!」
「上等だ!貴様ら、全員倒す!!」
「・・・・・わかったよ。僕が勝ったら、もう文句は言わせないから、良いね?」
「あなた方に、この私が倒せますか? モルダビア様のご加護を得た、この私を・・・・?」
「神に頼っているようなヤツに、この俺様は倒せん!!
ネイティオ、貴様も覚悟しておけ!今までの俺様と思うなよ!!」
「僕は、負けるつもりはないよ。
もっとも、勝負はやってみなければわからないけどね。」
「つくづく・・・愚かな方々だ・・・。」
くつくつと、不気味な笑みを張り付かせるベルカイル。
彼の頭の中では、既にモルダビア教の信者となったゼネスとネイティオの姿が
描かれているに違いない。


・・・こうして、様々な思惑を胸に秘め、戦いの幕が切って落とされた。


序盤の土地取りが順調だったベルカイル有利に、勝負は展開されている。
追撃するゼネスを、アイテム破壊の効果を持つグレムリンアムルや、
一定時間クリーチャー召還を封じる呪いサイレンスといった嫌らしい効果を持つカードで振り払ってきた。
一方のネイティオは、序盤の手札にクリーチャーがなかなか来なかった事もあり、拠点不足に陥った。
飽和状態の魔力を、聖堂で護符を得る事により凌いできたが、これだけでは勝負に勝つ事はできない。


(・・・まいったなぁ・・・。序盤のクリーチャー貧乏が響いてるな。
ぼちぼち反撃に出ないと、追いつけなくなるかも・・・。)

「ネイティオさん、モルダビア様に許しを請うなら今ですよ!」
高笑いするベルカイルを尻目に、手札を見つめる。
・・・今は、耐える時だ。
反撃のチャンスは、必ずやって来る。


(・・・くそっ・・・、あの邪神父に、あと一歩のところで追いつけないとは・・・。
それにしても、ネイティオの奴・・・このまま終わるつもりなのか・・・?)
一方的にライバルと決めつけた男。
これまで、自分がどんなに手を尽くしても、一度も勝つことができない男。
(・・・・・いや、あいつの事だ。油断はできまい!)
気を引き締めて、ゼネスは再び戦いに集中した。


ネイティオのターン。
新たに引いた1枚のカードに、目を光らせる。
「さて。そろそろ始めようかな。」
今一度、己の手札にさっと目を通し、ふ、とネイティオが笑みを零す。
一見、穏やかで周囲の者を安心させてくれるような笑顔だったが、ゼネスの表情がさっと凍り付いた。
(ま、まさか・・・ネイティオの奴、仕掛けるつもりか!?)
これまで、幾度となくネイティオと壮絶とも言える戦いを繰り広げてきたゼネスは、
今の笑みが行動を起こす合図だという事を知ってしまった。
これまで、自分が有利に戦いを進めていても、今の笑みを合図にネイティオが反撃に転じ、
何度も逆転負けを喫してきたのだ。
(またか・・・またなのかっ!?)
ゼネスの脳裏に、数々の悪夢が蘇ってきた。
ネイティオには、自ら『キーカード』と呼ぶクリーチャーカードが有る。
決して確実とは言い難いが、攻撃が成功した時に相手クリーチャーを
強制的に別の土地へ追い出す能力を持つ『リトルグレイ』。
ゼネスは、このリトルグレイに散々苦汁を舐めさせられた。
今、奴の手元にはリトルグレイがあるはずだ。
奴がこれまで嫌という程使ってきたリトルグレイがブックに無い事は有りえん!
自分の血液が頭からすうっと下がる感覚に見舞われ、ゼネスはごくりと喉を鳴らした。
しかし、現在のトップはベルカイルだ。少なくとも、自分に向かって仕掛ける事は考えにくい。
弱気な思考ではあるが、トップを走る者が常に狙われるのは、戦いの中では当然の事だ。
今回だってその例に漏れない・・・筈だ。


「そこの土地、あけてもらおうかな。
頼んだよ、グレイ。」

・・・・・来た!!!

ネイティオが眼前に翳したカードは、宇宙人とも呼ばれる奇妙な生命体、リトルグレイ。
ゼネスにとっては、悪魔のカードと言える1枚。
ネイティオが召還したリトルグレイと、ベルカイルが土地を守らせているスペクターの戦いを、
ゼネスは固唾を呑んで見守っている。

「わっ・・・私の土地へ!?」
「さて・・・スペクターを誘拐できるかな?」

スペクターは、戦闘中の攻撃力と防御力がランダムで変化するクリーチャー。
強制移動、『誘拐』とも呼ばれる能力が発動しなければ、
リトルグレイは返り討ちに遭う可能性もあるのだ。

スペクターの攻撃力68、防御力51。
「・・・あ・・・・・・。」
攻撃力の上昇で凶暴な姿になったスペクターを、呆然とネイティオは見つめた。
使用クリーチャーに先制能力を与えるアイテムであるブーメランを携え、
スペクターがリトルグレイに容赦無い一撃を見舞う。

「そのような貧弱なクリーチャーで、スペクターを倒せるとお思いか?悔い改めなさい!」
勝ち誇ったように、高らかな笑いを響かせる。
「・・・すまない、グレイ。君の戦いは無駄にはしないよ。」
そっと目を伏せ、ネイティオはぼそりと呟いた。
「・・・せっかく、ブーメランを使わせたんだからね。」

(何故だ・・・何故、俺の時はいつも『誘拐』が成功して、今回は失敗するんだ!?)
ゼネスは頭を抱えるばかりだ。
しかし、当のゼネスもベルカイルを何としても蹴落とさなければ、勝利は無い。
躍起になってベルカイルの土地に攻め入るが決め手を欠き、ベルカイルにあしらわれる始末。

ネイティオ、次のターン。
相手の手札を破壊するシャッターを、ベルカイルもゼネスも持っていなかったのが幸いした・・・。
「ベルカイル、君のカードをもらうよ。スワップスペル。」
ネイティオが眼前に掲げたカードが光を発し、ネイティオとベルカイルの手札を全て、
強制的に交換させた。
「くっ・・・私の手札が!?」
正直な話、ベルカイルの手札で必要なカードはただ1枚。
他のカードはどうでも良かった。
もっとも、ペトリフストーンなど戦闘で活用できるカードを相手に渡した事になるので、
結果的に悪い交換ではなかったと言えよう。
しかし、ベルカイルは・・・。
(何と言う事だ・・・・・。G・クローラーやアルマジロなど・・・
私にとっては意味の無いカードではないか・・・。)
手札をそっくり交換され、わなわなとベルカイルは肩を震わせる。
「ベルカイル、君のカードは無駄にはしないよ。」
憎らしい程清々しい笑顔を向けられ、ベルカイルの頭に血が上った。
「ネイティオ・・・私への狼藉、必ず後悔させてあげますよ・・・!」
「わかった、楽しみにしてるよ。」
憎悪の込もった突き刺さるような視線もネイティオはさらりと受け流す。

(なっ・・・何だ!?ネイティオの奴、そうまでして一体何のカードを欲していたというのだ!?)
総魔力で2位という立場にありながら、どうにも自分は蚊帳の外にいるような気がして、
ゼネスの心に焦りの色が見られるようになった。


「さあ、グレイ、戻っておいで。レイズデッド。」
ネイティオが必要としていたカードは、何とレイズデッドだった。
最後に倒されたクリーチャーを、自分の手札として復帰させるカード・・・。


「きっ、貴様!!!・・・そんなにリトルグレイが好きかっ!?」
「もちろん。そのためにわざわざスワップスペルを使ったんだからね。」
さすがのゼネスも呆れるしかない。
ネイティオは、あくまでも侵略クリーチャーをリトルグレイに絞ったようだ。
「誘拐は止めろー!!!」
「何故だい?こんなに楽しいのに。」
「こっちは楽しくないっ!!!!!」
またしても、ゼネスの脳裏に、『誘拐』の恐怖が蘇ってきた。


リトルグレイの指先が光った!
ベルカイルの拠点を守るクリーチャー・ナイトメアが誘拐される。

リトルグレイの指先がまた光った!
ゼネスの拠点を守るヘルハウンドが以下略。


その後も、次々と『誘拐』されまくる、ゼネスとベルカイルのクリーチャー。
誘拐された先は、土地の価値が低い袋小路や、クリーチャーと属性が合わない土地ばかり・・・。


「モ、モルダビア様・・・!!!」
「ば・・・バカな・・・!!!」

男2人の悲鳴が、廃墟に響き渡った・・・・・。




「あああ・・・モルダビア様の教えが、間違っていたというのか・・・???」
不届き者をモルダビア教の信者に改心させるどころか、その不届き者に完膚無きまでに
叩きのめされたベルカイルは、よろよろとその場にへたり込んだ。


「くそっ・・・この俺様が、また・・・・またまたまたまたまた負けるとはっ!!!」
地面に拳を打ち付け、怒りを顕わにするゼネス。
「リトルグレイなんか・・・大っ嫌いだー!!!!!」



「いつもの事だけど、誘拐は楽しいね、ゴリガン。」
「・・・ネイティオ殿、人様のいる前でそのようなセリフはお控えくだされ。
あらぬ疑いをかけられますぞ・・・!」
「そうかな・・・?」
「そうですぞ。」
「・・・こんなに楽しいのに。」
納得のいかない表情で、霧に覆われた空を見上げる。
「でも・・・これであの神父さんが心を入れ換えて、この街を少しでも元に戻してくれると良いけど。」
「・・・・・・そうですな。」

絶望に打ちのめされた男2人を尻目に、ネイティオとゴリガンはナバトを後にした。



END


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