仁義無き戦い!?リターンズ





深い霧と闇に覆われた都市。
今は、ほんのわずかな光を取り戻している。

少し前までは、人の姿すら見られない程に荒廃していたナバトであったが、
生きる希望を取り戻した人々が徐々に集まり、街の復興に乗り出した。
人々が力を合わせ、瓦礫の除去や食料の運び入れを行っている。
その様子を、1人の青年と1本の杖が町外れから眺めていた。

「良かったね・・少しずつ人が戻ってきて・・・。」
青年・・・ネイティオは、眼を細めて微かに笑う。
霧の合間から覗く太陽の光に照らされ、プラチナブロンドの髪がきらりと輝いた。
「これで、ナバトも活気を取り戻すでしょうな。」
喋る杖・・・ゴリガンもまた、満足そうに頷いた。
「それにしても、ネイティオ殿は何故、再びナバトを訪れようと思ったのですかな?」
「これだよ。」
そう言って、小さな麻袋をゴリガンに差し出してみせる。
「何です?これは・・・?」
「花の種だよ。レイントロスの市場で売っていたから買っておいたんだ。」
「花の種・・・ですか?」
「そう。本当はタリオまで戻って、オライリーさんにでももらってこようかと思っていたんだけどね。」
「でも、何故そのような・・・?」
「うん。少しでも街が元の姿に戻れるように、街の片隅にでも植えてみようかなって。」
「ネイティオ殿はお優しいですな。」
「そういう訳じゃないよ。でもね、もしも自分の故郷がこんな風に姿を変える事があったら悲しいだろう?」
「・・・そうですか・・・そうですな。」
神妙に頷くゴリガン。
彼らは、ナバトの街の中心へ向かって歩みを進めた。


神殿に向かったネイティオとゴリガンは、そこで信じられない光景を目の当たりにした。
かつてカルドセプトを巡る戦いを繰り広げた相手、邪神モルダビアを崇める神父ベルカイルが、
街の人々に植木鉢を手渡している。
植木鉢には、神殿の庭に咲いている薄紫色の花が。
綺麗とも可愛いとも表現し辛い花・・・ではあるが、こうして見ると心和むから不思議だ。
「やあ、こんにちはベルカイル。」
まるで旧友にでも話しかけるように、ネイティオはベルカイルに挨拶する。
「おや、ネイティオさん。久し振りですね。」
にこやかに微笑みかけるベルカイル。
その笑みを見る限り、邪神を崇拝し街の人々を恐怖に陥れた張本人とは到底思えない。
「良かったですな、ネイティオ殿。ベルカイルもすっかり心を入れ替えたようですぞ。」
ゴリガンはネイティオに笑ってみせる。
「・・・・・それはどうかな?」
ネイティオは笑みを返すが、目が笑っていない。
「・・・?」
その言葉の意味を理解しかねたゴリガンは、ただ首を傾げるしかなかった。

「あれから私は考えを改めまして、街の人々に戻ってもらうよう懇願したのです。」
通りを歩く人々に挨拶するベルカイル。
一見、街の人々に慕われている神父に見えるのだが・・・。
「モルダビア様がこの世界に姿をお見せにならないのは、モルダビア様を信仰しない愚かな人間を
追い払ったせいだと・・・。私が、無理矢理モルダビア様を人々に信じさせようとしたからだと・・・
ようやく気付いたのです。」
「・・・・・はぁ・・・・。」
間の抜けた返事を返すゴリガン。
どうやら、ベルカイルが完全に改心したと思いこんでいたようだ。
「ならば・・・、私は行いを改め、人々に信仰を強制する事を止めるべきだと考えたのです。
私の姿を見て、人々が私の崇める神を信ずるようになれば良いと・・・。」
「・・・成る程、そういう事か。」
ネイティオは肩を竦める。
つまり、ベルカイルは邪神モルダビアを未だに信仰しているというわけだ。
人々に誠心誠意尽くすという気持ちに嘘偽りは無さそうだが、それも全ては邪神モルダビアを信仰させるためであり、
言い方を換えれば、モルダビアを人々に信仰させるためにはどんな苦労も厭わない・・・という事だ。
「私の心の中には今でもモルダビア様がいらっしゃる・・・・・。
カルドセプトの力であなた方を倒せば、それが私の信ずるモルダビア様の力になると言えましょう・・・。」
「やれやれ・・・改心したと思っていたのだが、まだそんな事を言っておるのか・・・。」
ゴリガンはがっくりと項垂れる。
「もしかして・・・僕はまた彼と戦わなければいけないのかい?」
他人事のような質問を投げかけるネイティオに、ゴリガンは溜息で答えを表した。
「・・・僕は、別に勝負をしに来た訳じゃないんだけどなぁ・・・。」
ネイティオのぼやきは、当然ながらベルカイルに届いていなかった。
意気揚々と先を進むベルカイル。
ゴリガンに肩を竦めてみせ、ネイティオは後に続いた。


「ここなら、人々の迷惑にはなりません。」
まだ人の手が入っていない廃墟が広がる。
ここで勝負をしようと言うのだ。
確かにここでなら、ティラノサウルスでもリヴァイアサンでも召還し放題・・・という気分になる。
いっそのこと崩れかけた建物を破壊し尽くして、更地になったところで町の人に建物を建ててもらった方が
効率が良いのではないか・・・?そんな事を考えてしまう。
「では・・・始めましょうか・・・?」
「・・・ああ・・・わかったよ。」
ネイティオとベルカイルが己のブックを手にしかけたその時。


「その勝負!待った!!!」


どこからともなく響くその声は、もう嫌という程聞かされてきた声・・・・・。
「やれやれ・・・また来おったか・・・・・。」
うんざりしたようなゴリガンの呟き。

「ふっ・・・この俺様を差し置いて戦おうなど、良い度胸だな!」
廃ビルの陰から姿を現したのは、「竜眼のゼネス」と呼ばれる男。
ネイティオを一方的にライバル視し、事ある事に戦いを挑んできたが・・・・・
未だに一度も勝てた事が無い。
きっと今回も、『今日こそは勝つ・・・・・!!』と闘志満々で乗り込んできたに違いない。
しかし当のネイティオは、ゼネスをライバルと言うよりも友人の1人と思っているようで、
尚更ゼネスとしてはイライラが募るのであろう。

「やあ、こんにちはゼネス。」
案の定、ネイティオはのほほんと声をかける。
燃えさかる闘志がしおしおと萎えていくのを辛うじて堪え、ビシイッ!とネイティオを指差す。
「今日こそは貴様に勝つ!どんな事をしても勝つ!!」
「・・・全くこの男は・・・『懲りる』という言葉を知らぬのか・・・?」
ぶつぶつと文句を言い始めるゴリガン。
一方のネイティオは、特に気にしていないようだ・・・・・。
「ベルカイル、ゼネスを交ぜても良いかい?」
「もちろんですよ・・・倒す相手が多い程、モルダビア様により多くの力を捧げる事ができるでしょうからね・・・。
もっとも、私が勝てば、あなた方をモルダビア教に感化させる事ができるでしょうけど・・・。」
不敵に微笑むベルカイル。
かつて程邪悪な感じは見られないが、それでも邪教を信仰する身である事に変わりはない・・・。
「ふん、俺の信じるものは俺自身だ!
俺が貴様らを破り、ゼネス教の信者にしてやろう!」
高笑いとともにとんでもない事を口走る。
「ぜ・・・・・ゼネス教じゃと・・・・!??」
杖である顔を、誰が見てもわかる位真っ赤にしながら、ゴリガンが吹き出しそうになるのを
一生懸命堪えようとしている。
「きっ・・・聞きましたか、ネイティオ殿!?ゼ、ゼネス教ですと!?ゼ・・・ゼネ・・・!!!」
とうとう、堪えきれなくなったゴリガンがぴょんぴょん跳びはねながら笑い出した。
「笑うなっ!!!」
ムキになって抗議するが、恐らく自分で言ってて恥ずかしかったのだろう。
噛み付かんばかりの勢いでゴリガンを睨み付けるゼネスの顔も真っ赤だ。
「恥を知りなさい。神を冒涜する不届き者が。」
「や、やかましい!!」
「そもそも、モルダビア様に敵う神などおりませんよ?
対抗しようなどとは勘違いも甚だしい。」
あからさまに嘲笑しているベルカイル。
「ははは・・・おかしいですな、ネイティオど・・・の・・・?」
相変わらず全身で笑いを表しているゴリガンだが、視線の先にいる主には笑みが見られない事に気付く。
いや、むしろゴリガンが今まで見た事もないような、険しい表情がそこにはあった・・・・・。

「・・・・・宗教戦争なら、余所でやってくれないかな?」
冷めたような目で2人を見やり、ネイティオがくるりと踵を返そうとする。
「待てっ!!逃げるのかネイティオ!?」
「お待ちくださいネイティオさん、私との勝負はどうなるのです?」
背を向けたネイティオを引き留めようとするゼネスとベルカイル。
しかし、既にネイティオは戦おうという気が失せてしまったようだ。
笑い疲れたゴリガンが、慌ててネイティオの後をぴょこぴょことついて行く。
「コラ逃げるな!俺様と勝負しろネイティオッ!!!」
「お戻りくださいネイティオさん!これでは、私の計画が・・・・・!」
双方、好き勝手な事をまくし立ててネイティオを追いかけるが。


「・・・うるさいなぁ。
・・・・・テンペスト。」

「「・・・・・・は??」」


呆気にとられるゼネスとベルカイル。
ネイティオの呟いた言葉が咄嗟には理解できなかったようだ・・・。


ごうごうと吹き荒れる突風。
無情に地面を叩き付ける、針のような鋭い雨。
ゼネスとベルカイルは為す術もなく嵐に巻き込まれてしまった。

「モ・・・モルダビア様ぁ〜っ!!!!!」
「うわあああぁぁぁっ!!!」


・・・哀れ。
テンペストに巻き込まれた男2人の、悲痛な叫びが響き渡った・・・・・。





「この辺りで良いかな・・・?」


廃墟と化した民家の裏庭。
土を堀り起こし、麻袋から取り出した花の種を埋める。
「この花が、・・・咲く日が来ると良いね、ゴリガン。」
土を元に戻しながら見上げてくるネイティオの表情には、先程の険しさは無い。
いつもの、のほほんとした表情。
「え・・・・・ええ。その通りですな・・・ネイティオ殿。」
頷いてみせるゴリガンだが、内心はビクビクしていた。

(わしも、ネイティオ殿に逆らった日には・・・・・テンペストで吹き飛ばされてしまうのか・・・?)

目の前でにこにこと笑いながら花の種を植える青年を、ゴリガンは改めて恐ろしいと感じた・・・・。



END


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