春を呼ぶ花





「トーマスさん、トーマスさ〜ん!!」
勢いの良いノックとともに、ヒューゴの弾むような声が響く。
「ヒューゴ君?どうしたの?」
日誌を書く手を休め、部屋の主であるトーマスが慌ててドアを開けた。

「と・・・トーマスさん、あのね!
外に、すごく、綺麗な花を見つけたんだ!!」
息を切らしながらも、ヒューゴの声は嬉しそうだ。
「花?」
「うん、今から一緒に見に行こうよ、トーマスさん!!」
「・・・そうだね。行ってみようか。」
「本当!?やったぁ!!
じゃ早速行こうよ、トーマスさん!!」
ヒューゴに手を取られ、半ば引きずられるようにトーマスが後に続いた。


「トーマスさん、あの木!
あの木に、小さくて綺麗な花が咲いているんだ!!」
プレアデス城を出て程なく、目的の木を見つけた。
「ね、ね!綺麗でしょう?トーマスさん!!」
「・・・・・・・あの花は・・・」
「俺、あの花の名前知らないんだ。カラヤには、あんな花咲いてなかったし。」
ヒューゴが振り返った先には。
寂しげなトーマスの顔。
「・・・ト−マスさん?
・・・もしかして、あの花・・・・嫌い?」
恐る恐る、トーマスの顔をのぞき込みながら、ヒューゴが訊ねた。
「・・・・・あれはね、桜っていうんだよ、ヒューゴ君。」
そこには、トーマスの笑顔。
しかし、寂しげな色は消えていない。
「桜は・・・嫌いな訳じゃないよ。・・・綺麗な花だからね。」
「・・・トーマスさん・・・・?」
「ただ・・・・・、あの花を見るとね、思い出すんだ・・・。
僕の、母親のことを・・・。」
「トーマスさんの、お母さん・・・?」

ヒューゴが初めてプレアデス城に来た時、トーマスから告げられた言葉。
『僕の母親は、グラスランドの盗賊団に殺されたんだ。』
ヒューゴの頭の中に、その言葉がよみがえった。

「桜は・・・僕の母親が、好きな花だったんだ。『春を呼ぶ花だ』と言ってね。
無名諸国には、結構桜の木が多いんだ。
だから、春になると、母親と2人でよく桜を見に行ったよ。」
寂しさを押し隠すように、トーマスは笑った。
「トーマスさん、ゴメンナサイっ!!」
ヒューゴはトーマスに向かって、思い切り頭を下げた。
「? ヒューゴ君・・・?」
「俺、何も知らないのに、余計なコトして・・・。」
「そ、そんなことないよ。ごめんね、ヒューゴ君。顔を上げてよ。」
トーマスの言葉に、ゆっくり顔を上げるヒューゴ。
「桜の花は・・・本当に綺麗だと思う。本当は、僕も好きな花なんだ。
・・・だから、まさかここで桜の花を見るとは思わなかったよ。」
そう言って笑顔を見せたトーマス。
ほんの少しだけ寂しさを宿して。
「・・・トーマスさん。」
ヒューゴは真剣な面持ちで、トーマスの手を取った。
「今は・・・もう、トーマスさんは一人じゃないからね。
俺が・・・みんなが付いているから。ね?」
「ヒューゴ君・・・。」
「だから、もう、寂しい思いなんかさせないから。」


風が、流れるように吹いた。
咲き誇る桜は、その風の中に花びらを少しだけ散らした。

「ヒューゴ君・・・ありがとう。」
トーマスの笑顔に、もう寂しさの色はなかった。



END


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