その先にある世界
あの人は、どこか遠くの世界を見ている。
その先にあるのは、どんな世界?
のどかな田舎町デュナンでは、随所に桜が咲き誇っていた。
ピクニックにうってつけの場所であるはずのデュナンで、
現在、セプター同士の闘いが繰り広げられている。
「貴様の実力は、この程度か!?」
紫紺のマントに身を包んだ男が、鋭い視線を向ける。
左の瞳は、人のそれと異なる。
男が、かつて「竜眼のゼネス」と呼ばれた所以である。
「ここから、巻き返してみせるから!」
勝ち気そうな瞳を宿す少女が、笑みを浮かべながらも
噛みつくような口調で対抗する。
「貴様の現在の魔力は、俺より1500少ない。
この差をひっくり返せるというのか?」
「確かにキツイけど、私には切り札があるからね。
この程度では諦めないよ。」
「ほう・・・?
では、その言葉どおり、逆転して見せろ!」
ゼネスの右手に握られていたカードが光を放ち、クリーチャーが姿を現す。
「全てを噛み砕け、ケルベロス!!」
双頭が獅子、尾が蛇のクリーチャー、ケルベロスが召還された。
(うわっ・・・ケルベロスかぁ。二回攻撃が厄介なんだよなぁ。)
フィーは苦虫を噛みつぶしたような表情で、手札に目を通す。
(でも・・・勝ちたい。この人に、勝ちたい!
少しでも、この人の「世界」を知りたい・・・。)
そして、一枚のカードを抜き取り、祈るようにそっと額に当てた。
「頼むよ・・・マスターモンク!!」
カードから現れたのは、熟練の格闘家。
疾風の如く素早い攻撃を得意とするクリーチャーである。
威嚇し合うケルベロスとマスターモンク。
一触即発の雰囲気である。
(・・・どう見ても今の私の手札では、ゼネスのクリーチャーに勝てそうな子はいない。
アイテムも防御系の物ばかりだし。・・・今は耐え時かな。)
再び、手札をじっくりと眺め、フィーは溜息を一つ零す。
それにしても、と、ふと周囲を彩る桜の花を見渡す。
(綺麗な花だな・・・。ついこの間までは蕾だったのに。
こんな綺麗な場所で闘ってるのって、きっと私達くらいだよなぁ・・・。)
今一度溜息を漏らすと、三度手札を睨みつける様に見つめた。
(・・・切り札。・・・切り札か。
・・・確かに、あの子はまだ出てきてない。
まだ・・・、チャンスはある!!)
気を取り直し、目の前の闘いに集中することにした。
ゼネスとフィーが闘っている場から少し離れた風車小屋の側で、
彼らの対戦を見守る者たちがいた。
「フィー殿、どうか勝ってくだされ・・・。」
おろおろして落ち着き無く動き回っているのは、
神が造りしアーティファクトのゴリガン。
「大丈夫だ、ゴリガン。今までだってフィーは勝ってきたのだから。
今日も絶対に勝つ。あんなヤツには負けない。」
自分に言い聞かせるようにレオが答える。
彼は、どうもゼネスが気に入らないらしい。
「そうよね。たとえ不利な状況でも、今までフィーはひっくり返してきたんだもの。
でも、あの人の勝った姿も見てみたいなぁ・・・なんてね。」
セレナは肩を竦めていたずらっぽい表情を見せる。
「お前、フィーが負けると良いなんて思ってるのか!?」
レオが食って掛かる。
「別に、そんなこと言ってないでしょ!?
全く、フィーの事になると見境無いんだから。」
「何だと!?」
「2人とも、喧嘩してる場合ではないぞ。
フィー殿の戦いをしっかり見届けるのだぞ・・・はっ!?」
セレナとレオの口論を止めに入ったゴリガンが、異変に気付く。
「何?何?ゴリガン?」
「あ・・・あのクリーチャーは・・・!」
ゼネスの高額領地に止まったフィーが、戦闘を仕掛けるために召還したのは、
動きは遅いが高い確率で即死能力を発動する異世界のクリーチャー、
イグニズファツィ。
その即死能力で、ゼネスの土地を守っていたクリーチャー、
リザードマンが消滅したのである。
戦闘によりゼネスの高額領地を奪ったことで、フィーとゼネスの魔力値が逆転した。
「ば・・・バカな・・・」
さすがのゼネスも驚きを隠せない。
一方、してやったりの表情を見せるフィー。
「また勝ちを譲ってしまったか・・・次は必ず勝つ!」
結局、今回の対戦はフィーが勝利を収めた。
「・・・危なかったぁ。ファツィが来なかったら、負けてたよ・・・。」
フィーはホッと肩をなで下ろす。
「お見事です、フィー殿!!」
「やったわ!さすがフィーね!」
「フィー、素晴らしい戦いだったよ。」
みな口々にフィーを讃える。
「うん、ありがと、みんな。」
対戦で疲労しているはずだが、フィーの笑顔は清々しい。
「では・・・また闘いたくなったらここに来るが良い。いつでも相手をしてやるぞ。」
そう言うゼネスに、フィーはそっと右手を差し出す。
「はい。また・・・対戦してくださいね。」
「・・・・・ああ。」
静かに握手を返すゼネス。
そしてフィーたちに背を向け、去っていった。
「あんまりゼネスに構わんでください。
奴め、調子に乗りますからな・・・。」
ゴリガンの説教が始まったが、フィーは全く聞いていなかった。
ただ、ゼネスの去った方向を見つめていた。
そこには、もはやゼネスの姿はなく、ただ桜の花が風に揺られて
舞い降りているだけであった。
(確か、色々な世界を渡り歩いているって、前に言ってたな。
きっとあの人にとっては、ここもその世界の一つに過ぎないんだろうな・・・。)
「さぁ、先へ進みましょう、フィー殿。」
ゴリガンに促され、静かに歩みを進める。
「また、闘ってくださいね。」
誰にも聞こえないように、ぽつりとフィーは呟いた。
少しでも、貴方の見てきた世界を知りたいから。
END