桜花爛漫





心地良い日差しに誘われるように、あひるは駆けだした。
久し振りに、今日は放課後の居残りレッスンが無かった。
それだけでも、あひるの心に自然と喜びが満ちあふれてしまうのだけれど。

「・・・・・あった。」

それは、木々の緑の中で、遠慮がちに花を咲かせていた。
あるいは、淡いピンクの花をつけた木が、外の木々に守られているようにも見える。

「綺麗だな・・・。こんな花、今日まで気付かなかったなんて・・・。」
桜の木を見上げ、あひるはうっとりと目を細める。


それは、いつもの勘違いが生んだ、偶然の産物。
遅刻と思いこんで、あひるが寮を出たのは、早朝6時前。
大胆にも、近道を探そうと寮の裏手を進んでみると、
今まで気付かなかった、綺麗な花があひるの視界に入った。
(・・・あれ、こんな花、今まであったっけ・・・??)
満開の桜の木を見上げ、あひるは感嘆の溜息を零す。
「・・・・・・・・・・・あーっ!時間!!遅れちゃう!!!」
再びあひるは学園へ向かって走り出した。
(よーし、帰りにまた見に来よう!)
焦っているはずのあひるだが、その表情は笑顔であふれていた。


「・・・本当に、今日は居残りレッスンが無くて良かったぁ。」
風が吹く度にはらはらと散る花びらを全身で受け止め、あひるは呟いた。
手を伸ばし、舞い散る花びらを受け止める。
そこへ、

「・・・・・珍しい日もあるもんだな。」
背後から、聞き慣れた声が。
「・・・え?」
あひるは振り返る。その拍子に、あひるの髪に付いた桜の花びらが、
再びはらはらと散り始めた。
そこには。

「居残りレッスンがない日なんて、な。」
「・・・・・ふぁきあ。
・・・その言い方、失礼だよ。」
ぷぅと頬を膨らませて、あひるは抗議するが。
「ほぉ、じゃあ、昨日は?」
その瞳には、少々意地の悪い色が。
「・・・・・あったよ・・・。」
俯き、悔しそうな声で答えるあひる。
「一昨日は?」
「・・・・・・・・・ありました!」
睨みつけるように、ふぁきあを見上げるあひる。
それ見たことか、と勝ち誇った笑顔のふぁきあ。
「ふぁきあ、いじわるだよ・・・。」
再び頬を膨らませ、ふぁきあに背を向けるあひる。
「・・・おい。」
「・・・・何よ。」
あひるはふぁきあの方を見ようともしない。
ふぁきあは一つ溜息をつくと、
「ちょっと、じっとしてろ。」
「・・・え?」
あひるの髪に、温かい感触が。
「・・・髪、花びらだらけだぞ。」
ふぁきあはそう言うと、努めて穏やかに、あひるの髪に付いた桜の花びらを取ってやった。
「・・・ありがと。」
ようやく、あひるはふぁきあの方へ向き直った。
「・・・ふふっ、ふぁきあだって、髪にいっぱい花びら付いてるよ。」
「?そうか?」
そう言って、ふぁきあは無造作に髪に付いた桜の花びらを取る。
「あーっ!!!」
「な、何だ?いきなり・・・。」
突然大声をあげたあひるに、心底驚いたという表情のふぁきあ。
「ふぁきあ、ちょっと、ここに座って。」
「な、何だよ・・・。」
「良いから、座って。」
あひるの迫力に押される形で、桜の木の下に腰を下ろすふぁきあ。
すると、あひるは自分がしてもらったように、ふぁきあの髪から優しく桜の花びらを取り始めた。
「えへへー、お返し。」
「あ?あぁ・・・。・・・ありがと、な。」
「どういたしまして。」
さっきまでの膨れっ面はどこへやら、穏やかな声であひるが呟く。
「・・・・・・こうしてもらわないと、届かないんだもん。」
ちょっとだけ落ち込んだような声に、ふと笑いがこみ上げてくる。
「・・・・何で笑うのよ?」
「い、いや、つい・・・な。」
笑いを必死で堪えながら弁解しようとするふぁきあに、

「・・・・やっぱり、ふぁきあって、いじわるだよ。」
またしても、頬を膨らませるあひるだった。



END


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