素直になりたい
「すっかり遅くなってしまいましたね。」
ブラス城からの帰り道。愛馬を走らせながら、ちらりと空を見上げて
パーシヴァルが声をかける。
太陽は、既にその姿を地平線の彼方へ隠し、空はオレンジ色から徐々に
藍の色を濃くしていった。
「すみません。のんびりしすぎちゃいました。」
馬の首とパーシヴァルの腕に掴まりながら、申し訳なさそうにトーマスが答える。
「それは、お互い様ですよ。」
見上げてくるトーマスに苦笑する。
「ふふっ、それもそうですね。」
一転して楽しそうに笑うトーマスに、パーシヴァルも自然と笑みを返す。
炎の英雄ゲドを筆頭とする戦闘メンバーは、レベルアップ・情報収集及び
掘り出し物入手のため、クプトの森を抜けチシャ村へ向かった。
また、クリス・ヒューゴなど他のメンバーも、掘り出し物入手や仲間を募って
各地へ遠征に出かけてしまった。
そんな時、ブラス城の学術指南所にシックスクランにまつわる古文書が
あるという情報をスコットが入手し、トーマスがブラス城へ向かうこととなった。
あまり遠くないことと主な戦闘メンバーが外出しているということ、
そして城の警備が手薄になるということで、最初トーマスはセシル達の
護衛を辞退し、一人でブラス城へ行こうと考えていた。
しかし、兵士の訓練に携わっていたパーシヴァルが同行を申し出た。
戦闘要員であっても、確かに一人きりの外出は危険であるし、
ブラス城へ遠征に向かった仲間は現在いないので、情報収集も兼ねることとした。
ブラス城について程なく、パーシヴァルは多くの女性達に囲まれてしまった。
ぽつんと一人残されてしまったトーマスは、最初は
『パーシヴァルさん大変そうだな・・・』などと暢気に考えていたが、
華やかな女性達の笑顔を無意識のうちに眺めてしまっていた。
『あんな風に、いつもパーシヴァルさんの前で素直に笑えたらなぁ・・・』
トーマスは、彼女たちの笑顔を羨ましいと思った。
『そうだ、古文書・・・。』
しばらく立ち尽くしていたトーマスは、パーシヴァル達に背を向けて歩き出した。
その姿に気付いたパーシヴァルが、慌てて女性達の輪から飛び出してきた。
丁寧な別れのあいさつを忘れないのがさすがと言うべきか。
「お待たせしまして申し訳ありません。」
「・・・べ、別に・・・。い、いいんですよ、ゆっくりしていって・・・。」
ほんの少しだけ棘のある声を出してしまい、内心でしまった!とトーマスは思った。
「・・・・・城主殿?
・・・もしかして、妬いてくださったのでしょうか・・・?」
その笑顔は何故か嬉しそうで、かえってトーマスの勘に障った。
「そ、そんなことありません!!もっ、もう知りません!!」
真っ赤になって怒ったトーマスは、一人ずかずかと先に進んでいくが、
「・・・城主殿、そちらは学術指南所とは逆の方向ですよ・・・。」
込み上げてくる笑いを必死に堪え、努めて穏やかに、パーシヴァルが指摘する。
トーマスの動きはピタリと止まってしまった。
学術指南所で目的の古文書を入手し(3000ポッチ取られたのは痛かったが)、
街の人に現状を聞いて回ろうとしたトーマスだが、パーシヴァルにやんわりと止められた。
「情報なんていうものは、その気になれば勝手に入ってくるものなのですよ。
ところで、城主殿はブラス城内を散策されたことはありますか?」
「・・・いえ、書簡を届けに来たり、城に店を出してくれる人を捜しに来たくらいで、
・・・あまり見て回ることは・・・。」
「そうですか。せっかくですから、情報収集という名目で、城内を案内しましょう。
おっと、その前に・・・。」
パーシヴァルは城下町の一軒の菓子屋で歩みを止めた。
「せっかくですから、城下町一と評判のお菓子、いかがですか?」
「はっ・・・、はい。」
お菓子と聞いて目を輝かせるトーマスに、
「先程、城主殿のご機嫌を損ねてしまったお詫びもしたいですから。」
満面の笑顔のパーシヴァルに、トーマスの顔は火がついたように真っ赤になってしまった。
パーシヴァルのおごりで、季節限定という桜のアイスクリームを買って、店を出た。
少し歩いた先にある広場のベンチに並んで腰を下ろし、アイスクリームを食べる。
『こうしていると、何だか・・・で、デートみたいだな・・・。』
そんなことを考えてしまう自分を恥ずかしく思い、プラスチックスプーンの動きが
ふと止まる。
「お口に合いませんか?」
気が付くと、心配そうに自分を見つめるパーシヴァルの視線にぶつかった。
「え、え、あ、あの、そ、そんなことないです。」
慌てて、手の中のアイスクリームに向き直る。
「さ、桜のアイスって、初めて食べましたが、お、おいしいですね。」
また自分はきっと赤くなっているんだろうな、と顔を上げずにトーマスは話す。
ふと、先程の女性達の笑顔を思い出す。
『どうして、あんな風に素直に笑えないんだろう・・・。』
自分の感情を素直に表情に表せる彼女たちを、心の底から羨ましいと思った。
「お気に召していただけたようで。」
柔らかく、綺麗な笑顔。
そんな風に笑えるパーシヴァルも、羨ましい。
自分はただ、俯いてスプーンを動かすだけだ。
「さて、そろそろ城内に行ってみませんか?」
アイスの入ったカップをごみ箱へ捨て、一息ついたところでパーシヴァルが切り出した。
「あ、はい、そうですね。よろしくお願いします。」
「では、参りましょうか、城主殿。」
律儀にお辞儀するトーマスに、そっと手を差し伸べる。
トーマスは一瞬迷ったが、素直にその手を取った。
「せっかくのデートなんですから、楽しまなければ、損ですよ?」
「え、え、ええぇっ!!」
心の中を見透かされたようで、トーマスは目に見えて動揺したが。
「・・・私は、最初からデートのつもりだったのですが?」
そう言って軽くウィンクするパーシヴァルに、トーマスは呆然として何も言えなかった。
情報収集と称したデートを楽しんだ2人がブラス城を出発したのは、
太陽が翳り、徐々に夜の闇が広がっていく時刻だった。
『・・・怒ったり落ち込んだりしたけど、今日は楽しかったな・・・。』
馬上に揺られ、流れる景色を眺めながらトーマスは今日のことを振り返った。
本当は、まだ城には帰りたくない。
そんなことを言ったら、パーシヴァルさんはどんな顔をするだろうか。
単なる子供のわがままと受け取るだろうか。
そんなことを考えながら、パーシヴァルの腕に頬を擦り寄せた。
「・・・まだデートしましょう、トーマス。」
不意にそんな声が降りてきて、トーマスはパーシヴァルを見上げる。
そこには、トーマスの好きな、優しい笑顔が。
その笑顔に勇気付けられるように、思い切ってトーマスは告げてみた。
「・・・はい、ま、また、で、デートに連れて行ってください。」
本当は、馬から飛び降り走って逃げ出したくなるくらい恥ずかしかった。
しかし、トーマスはなけなしの勇気を振り絞って、消え入りそうな声で告げた。
優しい口付けとともに、パーシヴァルはそっとトーマスの耳許で囁いた。
「お望みのままに。」
次のデートの時は、もっと素直に笑えると良いな。
そんなことを考えながら、トーマスはパーシヴァルの腕の中で、
近づいてくるプレアデス城を夢見心地で見つめていた。
END