結成前夜
「冗談ではありません!」
「それはこっちのセリフだっ!!」
突然聞こえてきた鋭い声に、酒を酌み交わして談笑していた者達、
野菜チップを摘んだままぼんやりと窓の外を眺めていた者、
涙ながらに冒険の顛末を訥々と語っていた者、呆然とした表情でその話を聞いていた者達、
そして年若い冒険者の肩をバシバシ叩きながら豪快に笑っていた酒場の主、
皆が一斉に酒場の奥を振り返った。
彼らの視線の先には、テーブルを挟んでギリギリと睨み合っている袴姿のうら若い少女と、
黒革のジャンパーを纏った褐色肌の青年が。
「わたくしだってブシドーの端くれ。他の者に遅れなどとりませんっ!」
「あーあー、あんたみたいな線のほっそい女にゃぁムリムリ。
悪いこと言わねぇから、故郷にでも帰った方がいーんじぇねーの?」
「無礼なっ! 貴方のその言い方、許せませんっ!!」
「何だ、やろうってんのか?」
「望むところです!」
青年は革製の鞭、少女は「刀」と呼ばれる長剣。
各々の武器に手を伸ばす。
一触即発の雰囲気に、酒場の客全員が息を呑んだ…その時。
「待ちなさい。
ここでそんな物振り回したら迷惑よ」
二人の間に割って入ったのは、柔らかそうな金の髪を三つに編んだ女性。
「なっ…貴女は?」
「…邪魔すんなよ」
突然の乱入者に、青年も少女も不審な目を向ける。
しかし、金髪の女性は臆することなく、二人に鋭い言葉を投げつける。
「周り、見てご覧なさい。
せっかくみんな楽しんでるのに、あなたたちはブチ壊そうとしてる。
――わかるでしょ?」
「……あ…」
「くっ…」
二人は、はらはらと状況を見守っている冒険者達の視線にようやく気づいたようで、
渋々…という風ではあったが、抜きかけた武器を納めた。
「良い子ね、二人とも」
女性がニヤリと笑うのを、少女と青年は不満そうに睨み付けた。
「まあ、とりあえず座って。せっかくだから飲み直しましょ。
フォーレス、あなたもこっち来なさいよ」
二人に構わず腰を下ろした女性は、やや離れた位置に立っていた眼鏡の男に手招きした。
「では、お邪魔します」
にこやかな笑みをたたえた眼鏡の男――フォーレスは、少女と褐色肌の青年に会釈すると、
女性の隣に腰掛けた。
「……あなたたちも座ったら?」
ぽかんとした表情で突っ立っていた二人はようやく我に返り、慌てて席に着いた。
夜が深まり、酒場には多くの冒険者が集ってきた。
なかなかの大繁盛ぶりに、店主の大男も満更ではない…といった顔つきで店内を見渡している。
「…じゃあ、あなたたちもここの迷宮に挑戦するのね」
「あなたたちも…ということは、つまり…その…」
「そ、私たちもよ。ちょうどメンバーを探していたところ」
金髪の女性――レインが、遠慮がちな少女の質問に、あっさりと答える。
「だよな〜。ハイ・ラガードに来たからには、やっぱ迷宮に挑まなくちゃな!」
うんうん…と何度も頷くのは、褐色肌の青年。
こんがりとローストされた鶏肉に手を伸ばし、一気にかぶりつく。
「んぐ……ガキの頃から、ず〜っと世界樹の迷宮を制覇してやる! …って決めていたんだ。
やっと一人前のダークハンターとして認められたんで、ギルドを結成しようと思ったんだが…」
「アドマリウスと言いましたね、貴方にギルドマスターは務まりません」
「うっせーな! 余計なお世話だっ!!」
アドマリウスと呼ばれた褐色肌の青年が、少女の容赦ない一言に噛みついた。
「…そう? 私は、別にアドマリウスがギルドマスターでも良いと思うけど?」
「レインさん……お言葉ですが、この方に人を統率する力があるとは思えません。
私はこの方より貴女の方がギルドマスターに向いていると考えます」
「何だとぉっ!?」
「はいはい、熱くならない。ユウギリもやめときなさい」
「「……はい」」
レインの制止の声で、アドマリウスも少女――ユウギリも口をつぐんだ。
「――では、一度我々で樹海に行ってみませんか?」
「…えっ?」
「は?」
琥珀色の酒を飲みながら笑顔でみんなの話を聞いていたフォーレスが、突然口を開いた。
「我々四人と…あともう一人メンバーを探して、樹海を探索するんですよ。
もし、このメンバーではやっていけない…と判断すれば、ギルドは即解散。
そうでなければ、先へ進む…。いかがでしょうか?」
フォーレスの提案に、アドマリウスとユウギリは言葉がなかった。
レインは…というと、ニヤニヤと二人の様子を眺めているだけだ。
「……よっし。その話、乗った!」
決断が早かったのは、アドマリウスの方だった。
「俺は元々ギルドを起ち上げるつもりでいたし、得体の知れない奴と組むよりも、
あんた達の方が良い。
……まぁ、もっとも、この女はどうだか知らんがね〜」
「……失礼な!」
しばらくの間押し黙っていたユウギリが、屹度顔を上げる。
「わたくしは貴方をリーダーとは認めません。
……ですが、このままではわざわざハイ・ラガードまで来た意味がありません。
見極めさせていただきます。貴方が、わたくしたちのリーダーにふさわしいかを」
「……上等じゃねーか!」
またしても火花を散らして睨み合う、アドマリウスとユウギリ。
武器に手をかけないだけで、険悪さは全く変わっていない。
「…大丈夫でしょうか? あの二人」
「ああ見えて、結構良いコンビだと思うわ」
「…だと良いのですが……」
「それよりも、早くもう一人探さなくちゃ。
やっぱり五人いないといろいろとバランス悪いわよね」
「確かに、その通りですね」
大人組二人はそんなことを口にしながら、アドマリウスとユウギリのやりとりを見守っていた。