憎らしい程の、清々しい青空。
今日は、絶好の釣り日和。
「どうしても、釣りが上手くならないんですよね・・・。」
今日も2人並んで、釣り糸を垂らす。
まだ、バケツの中には魚はいない。
「ロンギヌス号に乗っていた時も、結構マメに魚釣りやってたんですけど、
どうしても他の仲間に勝てなかったんです。」
ぽつりと溜息を一つ零す。
「昨日は、結構釣れたではないか・・・?何がそんなに不満なのだ?」
振り返った時にトロイが見せた笑顔は、とても穏やかだった。
その端正な顔が見せる笑みをぽーっと見つめていたが、はっと我に返ると、ぶんぶんと頭を振った。
「で・・・でもっ!どうしても、大物が釣れないんですよ!
昨日釣った魚だって、みんな小さいのばかりでしたし・・・。」
ぷうっと、シルベストリは頬を膨らませる。
年相応・・・というには少し子供っぽい仕草に、苦笑いを返す。
「案外、負けん気が強いのだな・・・。」
「だって・・・何か悔しいですよ。仲間の一人なんて、『釣りの腕は俺の方が上だ!』なんて笑ってたし・・・。
・・・・・・あー悔しい。」
「そんなに怒っていると、せっかくの魚が逃げてしまうぞ。」
「うー・・・・・。」
「・・・それに。」
「?」
「別に今は、釣りの腕を競っているのではない。今日の夕食を仕入れているに過ぎない。」
「そっ・・・それは、そうですけど・・・。」
納得のいかない表情ながら、シルベストリはようやく釣り竿に向き直った。
やれやれ・・・と肩を竦め、トロイもまた釣りに神経を集中し始める。
共に旅をする事になってから、様々な事に気付く。
言葉少ない少年かと思えば、よく笑うしよく怒る。
特に怒る時は先程のように頬を膨らませるので、つい頭を撫でて機嫌を取ったりしてしまう。
戦いに身を置いていた時の自分からは、全く想像できない姿。
かつては敵として相対していたとは思えぬ互いの打ち解けぶりに、今更ながら苦笑を禁じ得ない。
「鮭という魚を、知っているか?」
「鮭?・・・ですか?」
日が西に傾き、数匹の魚が泳ぐバケツを持ち上げようとしたシルベストリは、首を傾げる。
「この辺りでは見かけぬが、北の方では食用として有名な魚らしい。」
「・・・そうなんですか・・・。」
「何でも、全長1メートルくらい有るそうだぞ。」
「わあ・・・すごいですね!」
まだ見ぬ魚に思いを馳せ、瞳を輝かせる。
「・・・・・行ってみるか、北へ?」
「・・・え・・・・・?」
「鮭を釣りに。」
かつて触れようとして拒まれた左手を、両手でそっと包み込む。
昔程、彼は左手に触れられるのを恐れなくなったようだ。
「一緒に、・・・行ってくれるんですか?」
「当然だ。」
一瞬、泣き出しそうに表情が歪むが、すぐに今日の青空のような清々しい笑顔を見せる。
「あ・・・ありがとうございます!」
柄ではないが、目の前の少年がこんな風に笑ってくれるなら、
どこへでも一緒に行こう・・・そんなことを考えてしまい、ふと笑みを零すのだった。
歴史の流れから忘れ去られた、2人。
しかし、ささやかだが穏やかな時間を手に入れ、精一杯生きている。
きっと、彼らにとっての、本当の幸せな時間を。
End
タイトルは、
5titles様からお借りしました。