細く綺麗な指先が奏でるのは、料理という名のシンフォニー。
「それにしても・・・・・。」
セレナが感嘆の溜め息と共に覗き込んでくる。
「どうしたの・・・セレナ?」
鮮やかな手つきで川魚を捌く手を止め、ルミナスが振り返る。
「いつものことながら、ルミナスって上手よねぇ。
どうやったらそんな風に綺麗に魚を切り分けられるの?」
「どうって・・・小さい頃からずっとやってきたから・・・かな?」
戸惑いがちに笑顔を見せるが、未だ少しぎこちない。
「ねえねえ、コツとかってあるのかしら?」
「コツ・・・特に、これといってないけど、中骨に沿ってナイフを入れたら綺麗に切れる・・・こんな風に。」
目の前で実践してみせるルミナスに、真剣に見つめるセレナ。
「うわぁ〜・・・すごーい!!」
「そ・・・そう・・・・・?。」
ルミナスの魚捌きを食い入るように見つめるセレナだったが。
「おーいセレナ!お前は薪代わりの落ち葉を拾ってくる担当だろう?
サボるんじゃないぞ!」
「セレナ殿・・・日が暮れてしまいますぞ。お急ぎくだされ!」
2人から少し離れた位置で野宿の準備に追われていたレオとゴリガンが呼びかける。
「わかったわよ〜!!・・・もうっ!せっかくルミナスに教えてもらってるのにぃ〜!!」
ぶつぶつと文句を言うセレナだったが、渋々腰を上げる。
「ゴメンねルミナス。また後でゆっくり教えてくれる?」
「うん・・・。」
肩を竦めてセレナが苦笑いするが、再びレオとゴリガンの声が聞こえたので、
ルミナスの許を離れた。
しばらくは魚を捌くことに没頭していたルミナスだったが。
「ルミナス、そっちは順調かい?」
今度はレオが近づいてきた。
「あと少しで終わるわ。」
既に野菜は鍋で煮込んである。
後は捌いた魚を入れるだけだ。
「魚・・・いっぱい取ってきてくれてありがとう。」
魚を捌く手はそのままに、ぽつりとルミナスが呟く。
「い・・・いや、これ位は大したことじゃない・・・。」
顔を真っ赤にしながら狼狽えるレオであったが、ふと視線がルミナスの手に移る。
素早く無駄のない動きで魚をおろす様は見事だと言える。
ナイフを持つ手は魚の血で染まっているが、
細く柔らかそうな指先はそれでも綺麗に見えるから不思議だ。
魚に向き合う真剣な表情も。
「・・・綺麗だな・・・・・。」
つい、口をついて出た言葉。
「・・・え?」
「あっいや、その・・・・・魚の捌き方が上手だなって・・・・・。」
「・・・・・そう?さっき、セレナにも言われたけど・・・。」
頬が紅潮したままのレオに首を傾げ、再び魚に集中する。
「こーらレオー!!あなたもサボっているじゃない!!」
「レオよ・・・人のことは言えぬぞ!!」
甘酸っぱい雰囲気を邪魔され、レオの表情が不機嫌そうに引きつる。
「うるさいな、俺の担当は終わったんだよ!」
「だったら、手伝ってくれても良いじゃない!?」
「全く、不親切な若者じゃわい。年寄りをもっと労らぬか。」
「わかったわかった。じゃ、ルミナス。」
「・・・頑張ってね。」
口やかましいセレナと都合の悪い時だけ自分を年寄り扱いするゴリガンに舌打ちしながら、
名残惜しそうにレオがルミナスに背を向けた。
「・・・全く、最近の若い者は・・・。如何ですかな、ルミナス殿?」
今度はゴリガンが様子を見にやって来た。
「あとこれで終わり。少し煮込んだらできあがるわ。」
「そうですか・・・ルミナス殿は料理が上手ですからな、今日はとても楽しみですぞ。」
「・・・そう?ありがとう。」
控えめな笑顔は相変わらずだが、こうして笑ってくれることが増えただけでも大きな進歩だ・・・と、
ゴリガンは満足そうに頷いた。
ふいに、魚をおろすルミナスの手つきに視線が移った。
「ほほぉ・・・相変わらず、ルミナス殿は魚の捌き方が鮮やかですなぁ。」
「・・・そう?さっき・・・セレナとレオにも言われたんだけど、特別なことはしていないのよ?」
「そんなことはありませんぞ。第一ルミナス殿は・・・・・。」
ゴリガンが言葉を続けようとしたその時。
「あ〜っ!!ゴリガンまでサボってるぅ〜!!!」
「・・・人のこと言えないのは、ゴリガンだって同じだろう!?」
「お主ら、もっと年寄りを労らぬか!?」
「何よー、普段は年寄り扱いしたら怒るくせにー!」
「ルミナスの邪魔はするなよ!」
「・・・はぁ、全く・・・。」
とぼとぼとレオ達のいる方向に進み出したゴリガンの背に、
ルミナスが苦笑いを零しながらそっと声をかける。
「・・・あと少しでできるから・・・待っててね。」
そんなこんなで楽しい旅は続く・・・。
End
タイトルは 「
実験的お題の箱庭。」 様からお借りしました。