まなざし(幻水3:&トーマス)





その瞳は、誰に対しても優しく。
国や民族などの拘りも無く、皆に対して公平に、平等に。


「今日も色々手に入ったね。」
袋を抱えながら、ステップを踏むようにアイラが軽快に駆け寄る。
「お薬も石けんも、毛布もいっぱいですね。きっと皆さん喜びますよ!」
メルがにこにこと見上げてくる。
右手の人形ブランキーが「俺様のおかげだぜ!」と胸を張る。
「ああ・・・。」
普段は滅多に笑顔を見せないゲドも、つい笑みを返す。
「ここんところ、城へ避難してくる人が増えてるからなぁ。
少しでも多く仕入れておかないと、到底間に合わないよなぁ。」
腕を頭の後ろで組み、ジョー軍曹が呟く。
大きな袋を引き摺らないよう、気を配りながら歩くのはさすがというか・・・。
「確かに、衣食住は生活の基本だからな。多いに越したことはない。」
生真面目に答える虫使いの青年フランツもまた、大きな袋を肩に担いでいる。
「しかし、まだまだ必要なものは多いな。英雄どの、明日も遠征に出かけるのであろう?」
銀の鎧を纏った大柄な武人レオがゲドに声をかける。
他のメンバーと同様に大きな袋を手に持っているが、2倍はあろうかという袋をこともなげに持っている様は、
まさに『鋼鉄のレオ』の異名にふさわしい。
「・・・明日はカレリアへ行こうと思っている。」
「おお、そうか。もしよかったら明日も声をかけてくれよ。
今日はちょっと暴れ足りなかったからなぁ。」
豪快に笑うレオ。
「あたし・・・カレリアのソーダ飲みたい。」
「おいおい、城の酒場に行けばソーダあるだろう?」
「でも、味が微妙に違うんだよ。ここのソーダも美味しいけど、たまにはカレリアのソーダ飲みたいよ。」
アイラとジョー軍曹のやりとりを、呆然と見つめるのはフランツ。
「あたしは・・・明日舞台があるから行けないなぁ。人気女優は辛いわよねぇ。」
溜息をつくメルであったが、事実メルが出演する舞台は連日大盛況なので、
劇団「炎の運び手」主催のナディールが主演女優にメルを起用することが多いのだ。
「はいっ、僕も!壁新聞の最新号、そろそろ発表しなくちゃいけないしね。」
サポートメンバーとしてパーティーに加わっているアーサーも手を挙げる。
「わかった・・・、メンバーは城に戻ってからだ。」
「「「「「「はーい!!」」」」」」
メンバーは元気&威勢良く返事をする。

ヤザ平原を北西に向かって登り、左手にイクセの村が見え始めた頃。
「何か、不思議だよね。」
唐突にアイラがゲドに囁く。
「・・・何がだ?」
「だってさ・・・少し前だったら全然想像できなかったよ。
鉄頭やルビークの人達と、こんな風に話したり遠征に出かけたり・・・なんて。」
嬉しそうに眼を細め、アイラが空を見上げる。
東の空は、既に闇の色に近くなっている。
目指す方向には燃えるような夕日が徐々に姿を隠しつつある。
「ゲドも知ってるとおり、あたし達シックスクランと鉄あ・・・じゃない
ゼクセンの人達は長い間争ってきたんだよ。
手を結ぶって聞いた時は、どうなることかと思ったんだけど・・・こうして普通に笑ったり、
力を合わせて敵と戦うことができるってわかったら、何か嬉しかったよ。」
「・・・そうか・・・。」
「あたし達、これからも争わないでいられるかなぁ?」
アイラの瞳は、しかし穏やかだ。
きっと彼女の心では、もうその答えを知っているのだろう。
「ああ・・・大丈夫だ。共に手を取り合うことを知ったのだから・・・。」
「そうだ・・・そうだよね?・・・きっと。
あたし達、あの城主さんに感謝しなくちゃ。」
「そうだな。」
今ここにはいない少年のことをアイラは口にした。
彼は生まれや育ちで人を判断しない。誰に対しても平等に優しい。
彼は自分にできることは大したことじゃない・・・と謙遜しているが、
実際、長年確執があったゼクセンとグラスランドが何だかんだで手を差し伸べ合うことができるのは、
共通の敵であるハルモニアの破壊者一行を倒すため・・・という共通の目的があったからだ。
しかしそれ以上に、プレアデス城を本拠地としてグラスランド・ゼクセンの民を迎え入れてくれた、
若き城主トーマスを始めとするプレアデス城の住人達のおかげなのである。

平原を登りきると、湖の畔に建つ古城が視界に入る。
「・・・そろそろ、かな?」
「・・・ああ。そうだな。」
城の門番を引き受ける鎧姿の少女が、ぴょんぴょんと跳びはねながら力一杯手を振ってくる。
「・・・相変わらず、元気だなぁ。」
ふっと笑みを零す軍曹。
いつもの通り守備隊長のセシルがぱっと姿を消す。
「しかし・・・いつものことながら、門番が持ち場を離れても良いのか?」
真剣に考えるフランツに、レオは笑いながらバンバンとフランツの背を叩く。
「大丈夫だって!!セシル殿はアレでしっかりしているさ。」
「いや・・・まあそれはわかるが・・・・・。」
再びセシルが姿を見せた時、遅れてトーマスがひょっこりと現れる。
「ふう。何かこれで、帰ってきたなーって気になるよな。」
「・・・ああ。」
ゲドも軍曹の言葉に頷く。

セシルに負けないくらい、精一杯手を振ってくるトーマス。
民族の違いなど小さなことだと気付かせてくれた、その意志の強い瞳が自分たちを迎えてくれる。

「お帰りなさい、皆さんお疲れ様でした。」

ここは、自分たちの帰る場所。



End


タイトルは 「実験的お題の箱庭。」 様からお借りしました。


back | template by vel