*トロイが仲間になっているという設定で書いています*
かつかつ・・・というやや高めの靴音で、誰が部屋に近づいてきたのかがわかる。
・・・また、例の話かな・・・?
少しだけ困ったような表情を見せ、シルベストリはペンを走らせる手を休めて、ノックを待った。
コン、コン。
ノックの音さえも落ち着き払っているように聞こえるところが、あの人らしいな。
そんなことを考えながら、ドアに向かって歩みを進める。
「こんにちは、トロイさん。」
渋い表情でドアの前に立つその人に、努めて笑顔で挨拶する。
「・・・邪魔だったか?」
「いいえ、ずっと書類とにらめっこしていて、そろそろ飽きてきた頃でしたから丁度良いタイミングでしたよ。
散らかってますが、どうぞ。」
「・・・そうか。」
ほんの少しだけ表情を緩めたトロイに安堵しかけたシルベストリだったが、
椅子に座るよう促した時にまた渋い顔に戻っていたので、一瞬息が詰まった。
「・・・あの連中、もう少し何とかならぬものか?」
・・・・・・・・やっぱり・・・。
全身に緊張が走る。
肩を強張らせて、シルベストリはトロイの次の言葉を待った。
・・・もう既に何度も聞かされてきた言葉を。
「確かに、我々解放軍は正式な軍隊とは言えぬ。
だからといって全く緊張感が無いのはどうかと思うぞ。」
「・・・はぁ・・・。」
決して自分が怒られているわけでは無いのだが、シルベストリは項垂れてしまった。
「ここには、連日の酒盛りで酔いつぶれる者や、己の任務を果たさぬ者が多すぎる。
良くこれまで生き延びられたものだな・・・。」
「・・・・・・はい・・・。」
仲間として迎えたその日から、トロイはこうしてシルベストリに苦言を言いに来るようになった。
生粋の軍人であるトロイにとっては、解放軍の雰囲気の何もかもがイレギュラー過ぎるのだろう。
もっとも、解放軍・・・と言えば聞こえは良いが、要は群島諸国の集まりに加え海賊・
果ては本来敵対する立場であるはずのクールーク兵までいるのだから、
各々が日常生活において好き勝手に行動していても無理は無いのだが・・・。
「私が直接指摘するのでは角が立つだろうから、お前から年長者に彼らを指導してもらうよう
話してはくれないか?」
規律を重んじるトロイらしい言葉に、危うく笑みを零しそうになる。
(でも、トロイさんも少しはここの生活に慣れると良いのにな・・・。)
顔を伏せながら、シルベストリはそんなことを考えた。
そこへ。
どたどた・・・と、この部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。
「・・・やれやれ、またか・・・。」
深い溜息を一つ。
これまでも、何度かシルベストリへの進言を邪魔されてきただけに、
今日は中断させるわけにはいかない。
すっくと立ち上がり、トロイはドアに向かって歩みを進めたが。
「シルベストリ〜!大変だよぉ〜!!
訓練所の前でケンカが始まっちゃったよ〜!」
ノックもせずに飛び込んできたのは、ネコボルトの自称”未来の大商人”チープーだった。
「早く、早く〜!急いで〜!!」
余程慌てているのだろう。
チープーはトロイを振り返りもせずにシルベストリの腕を掴み、部屋から連れ出そうとする。
「すみません、トロイさん・・・すぐ戻ってきますから。」
シルベストリが申し訳なさそうに振り返るが、チープーに引き摺られた形で部屋を出て行った。
どたどた・・・と言う音が、次第に遠ざかっていく・・・。
「・・・・・・・・。」
深い、深い溜息をついて、トロイもまたシルベストリの部屋を後にした。
・・・このまま待っていてもしばらくは帰ってこないとわかっているから、
渋々2人の後をついて行くことにしたのだ。
(・・・案外、このまま済し崩し的にここの生活に馴染んでしまうのかもしれぬな・・・。)
苦み走った顔にほんの一瞬だけ笑みを浮かべると、トロイは微かに聞こえる足音を頼りに歩みを進めた。
End
タイトルは 「
実験的お題の箱庭。」 様からお借りしました。