終わりと始まり(カルド1:ネイティオ&ゼネス)





「・・・それで、マルクスタット大陸北部の異常気象の原因は?」
「地軸が約0.001度南に傾いていた事が解りました。
よって、一年中雪と氷に覆われたマルクスタット北部の気温が上昇し、
洪水が起こったようです。」
「地軸の修正は?」
「レイノス指示の下、無事修正は終わりました。」
「ご苦労様、イリアス。今日はもう休んで良いよ。レイノスにもそう伝えてくれるかい?」
「はい。では、失礼いたします。」
イリアスと呼ばれた女性は柔らかく微笑むと、しずしずと執務室を後にした。


執務室・・・というには、あまりにも本が多過ぎる一室。
本棚には収まりきらないのか、机にも、床にも本が積み上げられている。
それでも、窓から射し込む日差しで本が色褪せないように、
日の当たらない場所を選んで積み上げているのがわかる。
ナラ無垢材の机に頬杖をついてイリアスの後ろ姿を見送った青年は、
時空の扉が開く気配を感じ、ほんの少し苦笑いを零した。


「・・・ネイティオ様。」
ノックの音と共に、遠慮がちな声が扉の向こうから聞こえる。
案の定、先程執務室を出たばかりのイリアスが顔を覗かせた。
「あの・・・ゼネス様がお見えになりましたけど?」
「わかった。通してもらえるかい?」
「かしこまりました。」
イリアスが扉へ向かうよりも早く、見慣れた漆黒の髪と鋭く光る竜の瞳を持つ男が、
ずかずかと執務室に入り込んだ。
「やあ、こんにちはゼネス。」
のほほんとした笑顔と共に、古い友人を出迎える。
そしてイリアスに向かって、軽く手を振って見せた。
ほんの少し肩を竦め、軽く一礼した後、イリアスは今度こそ執務室を後にした。


「アルマアタに行ってたんだっけ?どうだった、あそこの覇者候補は?」
「別に。大したことはない。」
勝手に椅子を引き摺り、どっかと腰を落とす。
「確かに、覇者としての資質は申し分ない。・・・だが、つまらん。」
「?」
「あの覇者候補とは一度戦っただけで十分だ。
これ以上戦っても、面白い事など何一つ無いと言うことだ。」
「・・・たまには、覇者候補がどんな結末を辿るか見届けてくればいいのに。」
「興味無い。」
友人の言葉は、非常に素っ気ないものだった。
やれやれ・・・と肩を竦めながら、ネイティオは紅茶を淹れ始める。
「それで?次はどこへ行くんだっけ?」
「さあな。ゴリガンの奴が言うには、ソルタリアで不穏な動きがあるとか何とか・・・。
まぁ俺としては、次はもう少し骨のある奴と戦いたいものだがな。」
「・・・君は本当に戦いが好きだね。」
「当たり前だ。戦いがあるからこそ、俺はこの役目を引き受けたのだからな。」
一つの役目を終え、また新たな地へ赴く。
様々な世界を渡り歩く友人をほんの少し羨ましいとは思うが、
せめて戦うこと以外にも、彼が生き甲斐を見出せると良いのに。

誇らしげに胸を張る友人を、ネイティオはほろ苦い表情で見つめる。


「ゴリガン・・・元気にしているかい?」
「・・・口やかましいのは相変わらずだが。」
懐かしそうに目を細めるネイティオに対し、ゼネスは至極つまらなそうに呟いた。
アールグレイの豊かな香りが部屋を満たす。
「うん・・・。上出来だな、今年の茶葉は。」
満足そうに頷いて、紅茶を口に運ぶ。
自然と手が机上の本に向かって伸ばされようとしたその時。
「読むなっ!俺と戦えっ!!」
鋭い声が突き刺さる。
「良いじゃないか。今日は仕事でずっと本が読めなかったんだから。」
「ちょっとくらい本が読めなくとも死なん!!」
「でも、別に戦わなくたって僕は良いんだけど・・・。」
「この俺が、良くないんだっ!!
今日こそ貴様に勝って、連敗記録を止めてみせるのだからな!!」
「じゃあ、これ読んでから・・・。」
「だーかーらー!!!読むなって言ってるだろうがっ!!!」


その後、ゼネスはネイティオのリトルグレイにコテンパンに叩きのめされた・・・。



End


タイトルは 「実験的お題の箱庭。」 様からお借りしました。


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