赤いリボン





2月14日、聖バレンタインデー。
自分には当分縁の無いイベントだと思っていたけど。

今日最後のお客さんが注文した海老フライランチの盛りつけをしながら、
今日何度目かの溜息をついた。

心ここにあらず。
料理人としては失格なんだろうけど、
今の自分は冷蔵庫の中身の方が心配でたまらない。

『臨時休業』
私用で店を休むなんて、本当に料理人失格だな。
でも、一度に何でも出来るほど、自分は器用ではないから。
それに午後から、城主さんに厨房を貸す約束しちゃったし。
・・・お父さん、ごめんね。

「メイミさん、こんにちは。」
「お邪魔します。」
おっといけない。
だらだらと後片付けしていたら、もうこんな時間だ。
城主さんと騎士さんが来ちゃったよ。
「こんにちは。今日はもうお店開けないから、ゆっくり使っていいよ。
それから、城主さん、これがチョコレートケーキのレシピだよ。」
そう言って冷蔵庫のドアに貼り付けておいた羊皮紙を渡す。
「ありがとうございます。」
深々とお辞儀をする城主さん。いつ会っても礼儀正しい人だな。
「それでは、厨房をお借りしますよ。・・・あ、そうだ。」
黒髪の騎士さんは、何か思い出したようにシャツのポケットから何かを取り出す。
「これを差し上げます。メイミさんも頑張ってくださいね。」
そう言って手渡されたのは・・・

赤いリボン

「え、何?・・・なんでわかったの?」
「・・・さぁ、何故でしょう・・・?
もっとも貴方が作るチョコレートでしたら、このような飾りが無くとも、
あいつは喜ぶでしょうけど・・・。」
そう言って穏やかに笑った。
・・・何で知ってるんだろう・・・この騎士さんは・・・。
予想外の事にうろたえてしまった。
でも、手は勝手に、その赤いリボンを受け取っていた。
「・・・ありがとう。」
「頑張ってくださいね。」
爽やかな笑顔で応じる騎士さんと、
「が、頑張ってくださいね、メイミさん。」
ちょっとだけ照れたような城主さん。
「・・・2人こそ、ケーキ作り失敗しないようにね!」
言ってやった。ちょっとだけ仕返し。

冷蔵庫からチョコレートトリュフの入ったパットを取り出す。
昨日の夜作っておいたものだ。
形は崩れていない。上出来だ。
チョコレートに傷を付けないよう、慎重に箱に入れる。
ふと、さっき騎士さんからもらった赤いリボンの事を思い出す。

「・・・ガラじゃないんだけどね。」
そう苦笑いしつつ、慣れない手つきでリボンを結ぶ。
ちょっとだけ、このリボンから勇気をもらった気がした。
「さぁ、行こう!」
チョコレートが入った箱を両手で抱え、あの人の仕事場へ向かう。


いつもいつも、最上級の素材を持ってきてくれる。
あの人が、愛情込めて育てた野菜達だ。
最初は、その素晴らしい素材に心を奪われた。
話をしていくうちに、あの人の仕事へのこだわりに感服したものだ。
・・・でも。
こういう気持ちを抱くようになったのは、いつからだろう。


「やぁ、こんちは。こんな時間に来るなんて珍しいな。
レストランの方はいいのかい?」
いつもの明るい笑顔。
この人はこうして仕事場にいる姿が一番かっこいいな。
「こんにちは。今日は・・・臨時休業なんだ。
実は・・・休んじゃった。」
ちょっとだけ後ろめたい気持ちになって、俯いてしまう。
「どうしたんだい?具合でも悪いのか?」
そう言って顔を覗き込まれると。
緊張するけど、・・・心配させちゃって逆に申し訳なく思ってしまう。
「あ、ち、違うよ。ごめんね、そうじゃないんだ。
あ、あのね・・・。」
両手で抱えていた箱を差し出す。
赤いリボンで結ばれた箱。

こういうのってガラじゃないんだけど。
自分には似合わないな、って思うんだけど。

今日だけは、いいよね?


「あの、これ・・・受け取ってくれる?」



End


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