夜の風(ウォンレイリィエン)
「傷・・・痛むあるか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとうリィエン。」
ウォンレイの傷の手当てをしながら、上目遣いにリィエンは問いかける。
リィエンの不安げな瞳に、そっと笑顔で答えるウォンレイ。
彼は、決して弱音を吐かない。
どれだけ傷ついたとしても。
『私はあなたを守り抜こう。』
再会し、再び共に戦う道を選んだ時、ウォンレイがリィエンに誓った言葉。
それ以来、どんな戦いの時も、ウォンレイはその誓いを守り通している。
ウォンレイは常にリィエンを自分の後ろに下げ、自らが彼女の盾になっている。
従って、リィエンが傷つくことは無く、代わりにウォンレイが傷だらけになってしまう。
「・・・ごめんなさい。」
俯いて、ぽつりとリィエンが呟いた。
「・・・どうした?リィエン・・・?」
顔を上げないリィエンに、努めて穏やかに問いかける。
「私・・・私、いつもあなたに苦しい思いばかりさせて、いつも安全な場所にいて・・・、
あなたはこんなに傷ついてるのに、私、何も出来ないあるよ・・・。」
俯いたままのリィエン。肩が小刻みに震えている。
「リィエン、・・・それは違う。」
「・・・え・・・。」
ようやく、リィエンは顔を上げた。
その拍子に、一筋の涙がこぼれた。
「最初は・・・、自分の戦いのために、あなたを巻き込んで傷つけてしまうことを恐れた。
何故、あなたが私の本の持ち主なのだろうと・・・悩んだこともあった。」
リィエンの頬に流れた涙を拭って、ウォンレイは話を続けた。
「でも、今は・・・あなたが、私の本の持ち主で良かった・・・そう思っている。」
リィエンの手を取り、ウォンレイは微笑んだ。
「・・・ウォンレイ・・・?」
「リィエン、あなたがいてくれるから、私は生きていける。
あなたが私の側で笑ってくれるから、私は戦っていける。
だから・・・、再びあなたと共に戦うことを決めた時から・・・、
私はどんなことがあっても、あなたを守り抜くと決めた。」
「・・・ウォンレイ。」
ぽろぽろと、リィエンの頬を涙が伝う。
「だから、どうか・・・泣かないで・・・リィエン。」
「・・・うん・・・うん・・・。」
涙を流しながらも、必死に笑顔を見せようとするリィエン。
静かにリィエンの頭を撫で、ウォンレイが微笑んだ。
「お茶、淹れてくるあるよ。」
ようやく涙が収まったリィエンは、いつもの笑顔を取り戻した。
「ありがとうリィエン。窓を開けもいいか?」
「いいあるよ。私が開けるある。」
部屋の窓を開けると、穏やかな風が部屋に入ってきた。
月の光が、リィエンを照らす。
まるで、スポットライトが当たっているかのように。
「夏も、もう終わりあるね。」
そう言って、リィエンは台所に向かっていった。
「・・・涼しくなってきたな・・・。」
頬に当たる風の清々しさに、ウォンレイは目を細める。
夏の終わりの風は、少しだけ心地よさを与えてくれる。
さらさらと流れるような穏やかな風を受け、いつの間にかウォンレイは
椅子に座ったまま眠りの世界へと引き込まれていった。
「ウォンレイ、お待たせある。お茶請けも持っ・・・。」
湯飲みと茶菓子を載せた盆を持って現れたリィエンだったが、
ウォンレイが眠っていることに気付き、慌てて口を噤んだ。
「ウォンレイ・・・そのままじゃ、よく眠れないあるよ?」
テーブルに盆を置いて、リィエンは苦笑いした。
二・三度揺り動かしても、ウォンレイは目を覚ます気配すら見せない。
眠りは相当深いようだ。
「疲れているあるね・・・。」
リィエンはベッドから毛布を持ち出し、ウォンレイに掛けてあげた。
「ウォンレイ・・・私は、あなたと一緒なら、傷つくことなんて怖くないあるよ。
でも・・・あなたが望むのなら・・・。」
リィエンは、包帯に包まれたウォンレイの左手に、そっと自分の手を重ねた。
「私は、あなたの側で、ずっと笑顔でいるあるよ。
ずっと、・・・ずっとあるよ。」
End