夜の風(ガッシュ&清麿)
長く楽しい夏休みは、今日でおしまい。
ガッシュは、今日ビデオに録画しておいた『カマキリジョー』を見ている。
リアルタイムで見ているはずなのに、こうして清麿にビデオ録画を頼んでは、
夜に繰り返し、カマキリジョーの活躍を見ているのだ。
床でくつろいでいるウマゴンと共に、ブラウン管の向こうで敢然と悪に立ち向かう
正義のヒーローに、拳を突き上げ声援を送っている。
部屋の窓からは、まだ熱気の残る風がカーテンを揺らしていた。
清麿は、鞄に夏休みの課題の数々を詰め込んで、
明日から再び始まる学校生活に思いをはせた。
(考えてみれば、こんな風に新学期が待ち遠しいなんて思うのは、久しぶりだな・・・。)
ついこの間までは、清麿にとって学校は意味の無い場所だと思っていた。
妬み・陰口の数々が嫌でも耳に入ってくる、息苦しい場所。
清麿にとっては、クラスメイトどころか先生さえも、味方ではなかったあの頃。
中学校に進んでからの清麿は、孤独な学校生活を余儀なくされた。
そうするうちに、清麿自身も周りを見下し、自分の殻に閉じこもるようになった。
しかし、清麿はガッシュと出会い、本来の明るい性格を取り戻した。
「さてと・・・準備はこれで良し。」
机に鞄を置いて、伸びを一つ。
ガッシュとウマゴンは、『カマキリジョー』の「また来週会おう!」という呼びかけに
律儀に応じている。
「ジョー!また頑張るのだぞ!!」
「メルメルメ〜」
ガッシュは、結局今週の『カマキリジョー』を5回も見たことになる。
清麿に教えて貰ったとおりにビデオデッキの電源を消したガッシュは、
おもむろに折りたたみテーブルを引っ張り出し、表紙に大きな字で
「えにっき」と書かれたノートを取り出した。
「今日のえにっきは『カマキリジョー』の話なのだ。」
うきうきと24色セットの色鉛筆から黒と緑を取り出し、真っ白なノートに絵を描き込んでいく。
テーブルの反対側から、ウマゴンが興味深そうにガッシュの動きを眺めている。
「ガッシュ、何か飲み物取ってくるか?」
ガッシュの邪魔をしないよう、そっと清麿は問いかける。
「・・・ウヌ、私はオレンジジュースが良いのだ。」
ノートから視線を外し、清麿を見上げるガッシュ。
「了解。」
清麿は椅子から立ち上がり、静かに部屋を出た。
ガッシュは、再びノートに向き直る。
ウマゴンはしばらくガッシュの様子を眺めていたが、
やがて身体を丸めて眠りに入ってしまった。
「・・・できたのだ!」
悪の組織と戦うカマキリジョーの勇姿。
絵日記は「カマキリジョー」の感想文となってしまったが、今日の課題をやり遂げた
ガッシュの顔には、満足そうな笑顔が宿っていた。
「待たせたな、ガッシュ。」
盆にジュースの入ったグラスを載せ、清麿が姿を現した。
「清麿、今日の課題が出来たのだ!!」
ガッシュは待ってましたとばかりに、たった今書き上げた絵日記を清麿に掲げて見せる。
「お、今日は早かったな。」
「当たり前だ。私だって、やれば出来るのだ。」
自信満々に答えるガッシュ。
清麿はガッシュの頭を撫で、『夏休みの課題』をこなしたガッシュを労った。
「長い間ご苦労さん、ガッシュ。夏の課題は、今日でおしまいだ。」
「?今日で、おしまい。?」
ガッシュが首を傾げ、問いかける。
「ああ。夏休みは、今日で終わりだ。明日から、また学校が始まるからな。」
「そうであったか。・・・清麿は、また学校へ、行ってしまうのだな・・・。」
「ああ。」
「清麿・・・私も学校に・・・」
「ダメだ。」
「ヌォオオオ!返事が早すぎるのだ!私も学校へ連れて行くのだ〜!」
「ダメだ。」
駄々をこねるガッシュに、即答の清麿。
「ウヌゥ、清麿は意地が悪いのだ!鬼なのだ〜!!」
とうとうガッシュが暴れ出した。
「バルカンがいるだろう?」
「ウヌ・・・。」
「ウマゴンだっている。」
「ヌ・・・・・。」
「ティオだって、時々遊びに来てくれるだろう?」
「・・・。」
「公園に行けば、遊んでくれる友達だって、いるんじゃないのか?」
「・・・そ・・・それはそうだがの・・・。」
「そういうことだ。」
「・・・ウヌゥ・・・・・。」
納得のいかないガッシュだが、結局は清麿に押し切られた形となった。
肩を落とし、溜め息一つ。
「仕方がないのだ・・・。清麿の言うとおりにするのだ・・・。」
夜の風がカーテンを揺らし、ガッシュの髪を撫でた。
(ついて行きたいって気持ちも、わからんでもないけどな・・・。
どうせ、保健室とかに隔離されちまうんだぞ?)
清麿は肩を竦めてみせた。
「それにしてもガッシュ、ちゃんと毎日絵日記を付けたのは偉いぞ。」
話題を逸らそうと、手にしたガッシュの絵日記に再び目を通す。
「ウヌ!私も、毎日絵日記を付けるのは楽しかったぞ!!」
ガッシュは落ち込んだ顔から一転、輝くような笑顔に切り替わった。
「絵日記のテーマも、バラエティに富んでいる。旅行・ナオミちゃん・花火大会・
カマキリジョー・ナオミちゃん・朝顔の観察・ナオミちゃん・・・・・、
ガッシュ、このナオミちゃんてのは一体・・・誰なんだ?」
視線をガッシュに移した清麿の目に飛び込んできたのは、青ざめた顔のガッシュであった。
「ウ・・・ウヌ・・・。」
心なしか震えているようだ。
清麿が改めて日記に視線を落とすと・・・。
ナオミちゃんをテーマにした日記は、全て「ナオミちゃんにいじめられた」という内容であった。
ガッシュの表情から、清麿はそれ以上聞かない方が良いと判断した。
「私は・・・私は・・・。」
震える声でガッシュが呟き、大きく息を吸い込んだ。
「私は、次こそ、ナオミちゃんに勝ってみせるのだー!!!」
ガッシュの声は、夏の終わりの夜空に響き渡った。
End